2020 Fiscal Year Annual Research Report
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20H00218
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
久保田 祐信 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 教授 (50284534)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
駒崎 慎一 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (70315646)
ステイコフ アレキサンダー 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 准教授 (80613231)
薦田 亮介 福岡大学, 工学部, 助教 (90801308)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水素 / クリープ / スモールパンチクリープ試験 / 空孔 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトは水素中クリープ試験と空孔等に関する計算の2つのパートから成る.第一年度であるFY2020について,実験パートにとって最も重要なマイルストーンは水素中クリープ試験機の導入と実験手順の確立である.高温に加熱した水素中で安全に実験を行うためには,特別な技術が試験機にも実験手順にも必要であるが,代表者の以前の科研(FY2016-2018, 16H04237)の成果を活かして,試験機の構築と試験手順の確立を行い,第一年度のマイルストーンを達成した.本プロジェクトで新しく開発する高圧水素中クリープ試験と水素中SPクリープ試験については,引き続き試験手順等の改良を行っていく.2台の水素中クリープ試験機(九州大学)と1台のSPクリープ試験機(鹿児島大学)が導入され,試運転を実施し,600℃の高温水素中でクリープ試験とスモールパンチ(SP)クリープ試験が実施可能となった.これらの試験機を用いて,FY2021には両大学で共通の材料を使用して水素中クリープ試験とSPクリープ試験を実施する予定である. 九州大学にはもう一台,以前の科研で導入した水素中クリープ試験機があるため,この試験機の結果によって水素がクリープ変形を加速させるメカニズムを検討した.その結果,過去に行われていた水素中クリープに関する研究とは異なる機構の提案に至った.そのため,この機構の妥当性検証のための実験方法についても検討を行った. 計算のパートでは,2台のPCを導入し,空孔の移動に関する水素の影響を明らかにすることを目的として,第一原理計算を実施した.さらに,鉄の格子中の空孔の拡散に関して温度の影響を明らかにするための別の方法による計算を実施した.その結果,鉄の格子中の空孔の拡散に及ぼす水素の影響は小さいことが明らかとなった.そのため,FY2021には空孔の生成に及ぼす水素の影響を考察するための計算を実施する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クリープは長時間の現象であることと,クリープ変形は応力,ないし,寿命によって機構が異なるため,長時間の現象は長時間の実験で把握する必要がある.一方,代表者らが今までに実施した水素中クリープ試験では,寿命が1000時間に達しない範囲にとどまっている.以上から,本研究の主たる目的の一つは,長寿命のクリープ変形に対する水素の影響を解明することである.このために,九州大学に2台の水素中クリープ試験機を導入した.鹿児島大学の水素中SPクリープ試験機も含めて,第一年度の重要なマイルストーンである試験機の導入を問題なく完了した.加えて,既存の水素中クリープ試験機の結果を用いて,水素中ではクリープ寿命が顕著に短い理由を考察した.その結果,水素はクリープ変形の機構を変えることなく変形を加速することを見い出し,水素による空孔の安定化が空孔濃度を増加させ,その結果として原子の拡散が促進され,クリープ変形が加速されるという機構を提案した. SPクリープ試験に関しては,直径8mm,厚さ0.5mmの微小ディスク試験片を用いて,高温水素中でのクリープ特性を計測・評価する新しい試験技術を世界に先駆けて開発した.また,九州大学と同一の材料(SUS304鋼)を用いて予備試験を行い,良好なクリープデータが取得できることを確認した. 上のような機構に基づくと,水素に関係した空孔の生成や移動は,クリープ変形に及ぼす水素の影響を明らかにするために本質的に重要である.このような検討は計算的手法によって行った.温度の影響を考慮するために,水素原子の傍にある鉄の格子中の空孔の拡散係数を計算する必要がある.そのため,3次元高調波遷移状態理論を用いて拡散係数を計算した.結果として,水素の存在により空孔の移動が顕著に加速されることがないことが示された.この結果は予想外のものとなったが,次年度は水素と空孔の生成に関する考察を行う.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,九州大学に設置した2台の水素中クリープ試験機の片方を用いて,寿命が1000時間以上の領域で水素中クリープ試験を実施する.もう一台の試験機では,水素中クリープ寿命に及ぼす水素濃度の影響を明らかにするため,今までよりも高い圧力での水素中クリープ試験を実施する.このためには,従来とは異なる試験方法を適用する必要があるため,水素濃度の影響を明らかにしつつ,試験方法の違いの影響の有無を検討する.なお,これらの実験の準備として,SSRTと短時間のクリープ試験を実施して,既存の試験機との整合性をチェックする.今まで研究を進めてきたSUS304鋼については,鹿児島大学と材料を共有して,異なる試験方法による水素中クリープの現象把握と機構解明をはかる. 既存の試験機については,今まで行われていないミクロ的な破壊過程の観察(ボイドの生成からき裂の進展)と提案したクリープ変形のメカニズムの妥当性を検証するための別の実験について検討を進める. SPクリープ試験は,試験条件(温度,荷重,水素ガス濃度)を系統的に変化させて,高温水素SPクリープデータを蓄積するとともに,不活性ガス雰囲気中での変形・破壊特性との相違を調べる.また,SPクリープ試験結果と標準単軸クリープ試験結果との関係についても議論する.さらには,SPクリープ試験後の試験片のミクロ組織解析や水素昇温脱離分析を行い,高温水素中のクリープ変形・破壊メカニズムについても考察する. 2021年度の計算的アプローチによる研究は,低温・高温と水素の有無による鉄の格子中の空孔の生成に焦点を当てる.さらに,第一原理計算による研究も空孔のクラスター化に関して,また,その結果として生じる転位欠陥に関して実施する.計算は2個の空孔の生成と2つの単一空孔の生成遷移状態計算を含む予定である.すべての計算は低温・高温と水素の有無について行う予定である.
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