2022 Fiscal Year Annual Research Report
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20H00277
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
箱崎 和久 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 部長 (10280611)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
海野 聡 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00568157)
大野 敏 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (20311665)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 埋没建物 / 民家史 / 建築史学 / 考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
出土建築部材の調査は、出土位置を特定できたものを中心に、群馬県埋蔵文化財調査事業団から提供いただいた部材の3Dデータを用いて、これを倒壊状態から建て起こし、パソコン上で部材同士を組み合わせるシミュレーションをおこなった。そうした机上での予測をもって、長野原町の収蔵庫の整理されている部材を引き出し、実際に組み合わせる作業をおこなった。これができれば、部材の3Dデータから復元図を描けるとの見通しであったが、実際は難しかった。それは、実物をみると容易に判断がつく材の痕跡も、3Dデータや写真ではわかりづらいため、シミュレーションが難しかったことが要因の一つである。実際に部材を並べて観察するほうが効率的であり、折れた材の接続を確認することもできた。ただし、その作業のためには、重い部材を破損させないよう引き出し、広いスペースに並べるという労力が必要で、収蔵庫内での作業はかなり困難を伴うという現実を突きつけられた。 これとは別に、収蔵庫内の部材の所在と状態を確認して基礎データを作成する作業は、今年度も継続し、東宮遺跡や西宮遺跡などから出土した部材など、収蔵庫に収蔵されている建築部材(木材)の基礎データを得た。 民家調査は、東大・横国大でのべ12回の調査をおこなった。悉皆調査は東吾妻町を対象とし、主屋・土蔵・付属屋等計748棟を調査し、詳細調査候補物件の選定をおこなった。悉皆調査は、これまで3ヶ年で4町村(長野原町・嬬恋村・草津町・東吾妻町)の調査を完了し、合計2428棟(このうち主屋1271棟、土蔵966棟)を調査した。また、長野原町で2件、東吾妻町で1件の詳細調査をおこなった。主屋を概観すると、規模の大きなものも多く、建立年代はおよそ近代に降り、屋根や建具にその後の改修が顕著なものの、予想以上に伝統形式を引き継いでいる物件が遺存している実態が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予想していたようには進捗しない部分があるが、資料の性格から自助努力では限界があることをふまえれば、全体的には順調と言える。 出土部材の調査はさまざまな点で困難を伴っている。昨年度もそうだったように、出土部材の出土位置を特定するのが難しいこと、特定できてもその当初位置を特定するのが難しいこと、当初位置を特定できてもそれと組み合う部材を特定するのが難しいこと、また実物を引き出して並べるためには労力がかかり、またそのスペースも十分に必要なこと、等である。これらは当初より予想できたことではあったが、出土部材の当初位置を特定して、一定程度の断面図が描ける状態になると考えていただけに、やや残念ではある。ただし、そこまでではなくても、1783年に埋没した建物の特質を抽出することはできると考えられるので、そうした点に力点を移しながら検討を深めていきたい。 一方の民家調査は、予想通り、東吾妻町の悉皆調査に時間を要し、今年度でようやく完了できた感がある。これで吾妻川流域の上流部はおよそカバーできたことになる。民家の悉皆調査をおこない、文化財の総合把握の一例として、現時点の建物の実態を記録した成果であり、全国的にも興味深い資料を提供することができていると思う。成果の内容としては、悉皆調査をしていくなかで徐々に感じられてきたことではあったが、主屋は近代に降るものが大半で、養蚕産業の影響を受けた物件が多いと考えられる。すると出土建築部材の調査とは絡まなくなってしまう可能性はあるものの、その形式などで興味深い物件も少なくなく、単純に現在に残る歴史的建造物の調査成果として活用できると考えられ、その意義は大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
出土部材関係の発掘資料の調査と、民家調査とを並行して進める。発掘資料関係では、石川原遺跡以外の東宮遺跡や西宮遺跡など、出土建築部材の残りが良い遺跡で、これまでと同様の作業を進めてみたい。ただし上部構造を検討できるほどの資料の遺存状況ではないと見られることから、あまり深追いはせず、解明できそうもなければやめることを視野に入れて進捗させる。一方で、1783年埋没当時の建物の特徴を知るため、部材の細部形式に注目し、継手や仕口の特徴、あるいは建物平面の特徴など、異なる遺跡や、現存民家などと比較できる特徴について情報収集していきたい、建物遺構自体は建築部材を十分確認できていないものを含めて多数あるので、そうした遺構から言えることをまとめるようにしたい。これをおこなうことで、現存民家との関連の有無も確認できる可能性がある。 現存民家調査は、詳細調査のステップに入りたい。詳細調査には住民のご協力が不可欠になるため、それを仲介していただく群馬県や各町村の文化財担当者にも理解を得る必要がある。このため、まず各町村の文化財担当者にこれまでの調査の成果を説明する機会を設けたい。これは今後の指定や保存活用の意識をもたせる効果も期待できる。そのうえで東吾妻町を中心とした地区の詳細調査をおこない、その特徴や建立年代などについて詳細を詰めてゆきたい。これらの民家調査の成果は、報告書にまとめるべく、その目次構成や刊行の方法を検討する必要がある。 発掘調査成果と民家調査成果とを付き合わせて検討できると期待したが、全体像はつながりがうすいとの見通しであるが、その部分も明らかにできるよう詰めておくことが必要である。
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