2021 Fiscal Year Annual Research Report
金属材料における溶解ダイナミクスと凝固ダイナミクスの相互関係の学理の構築
Project/Area Number |
20H00310
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森下 浩平 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00511875)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 溶解ダイナミクス / 凝固ダイナミクス / レーザー溶融 / Ni基超合金 / Al-Cu合金 / Cu粉体 / 溶断 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度にて低速域での溶解・凝固ダイナミクスについての実証的データについての基礎的知見が得られている.今年度は低速域でのさらなる実証的データの追加,すなわち組織を定義するパラメータと溶断との関係について検討を進めた.供試材としては引き続き第2世代Ni基超合金,Al-Cu合金およびCu合金を用いた. Ni基超合金ではその場観察を行いながら作製した種々の凝固組織について温度勾配方向に対するデンドライト成長方向の角度,一次および二次アーム間隔,昇温速度と一次アームの溶断発生の相関を精査した.その結果,二次アーム間隔が小さくかつ昇温速度が遅いほど一次アームが溶断しやすいことが明らかとなった.また,レーザー照射における急速溶解においては,溶解前の組織のデンドライト樹間のミクロ偏析を表面張力差に起因するマランゴニ流が集積することにより溶融池内に溶質分布が形成され,これが凝固後に溶融池スケールでのマクロ偏析として残存することが明らかとなった. Al-Cu合金では昨年度のAl-15mass%Cu合金に加え,純Al,Al-2,-5,-10mass%Cu合金のバルク体に対し種々の条件でレーザーをスポット照射させ,その凝固速度と組織を評価した.溶融池サイズと凝固速度とを規格化して比較した結果,溶質濃度の上昇とともに凝固中期にて純Alに比べて成長速度がばらつくことが明らかとなった. Cu粉体へのレーザー照射では成長した溶融池が基盤に接触した際に基盤への抜熱に起因して凝固が急激に進行すること,レーザー励起による入熱と基盤への抜熱とがバランスするのに加え,溶融池形状の変化などにより凝固と溶解を繰り返しながら成長方向を変化させてエピタキシャルに成長することが明らかとなった.したがって基盤に接する際のチル晶を抑制できれば結晶方位を引継いだ成長を持続できる可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は第2世代Ni基超合金,Al-Cu合金およびCu粉体を対象にレーザー照射による急速溶解・急速凝固現象のその場観察を実施した.Ni基超合金については抵抗加熱炉での低速溶解・低速凝固現象における溶断現象について精査した. Ni基超合金では抵抗過熱炉による低速現象とレーザー照射による高速現象とを比較する段階に入った.その結果,レーザー溶融のように非常に大きなポテンシャル勾配が存在するような液相においてはその流動が極めて大きく,それが溶解前の組織のミクロ偏析を集め,液相内に既にその後のマクロ偏析の原因となる溶質分布を形成するというモデルを実証的に獲得することができた.溶解前の組織を微細にしていくことでこの分布がどのように変化するのかについて精査する必要がある. Al-Cu合金では本年度は合金組成を増やすことでその影響を検討した.実験的に早い凝固速度を得られておらず,この点については最終年度に獲得する必要がある. Cu粉体へのレーザー照射では溶融池形成から基盤(溶解前の組織ともいえる)に起因する凝固開始,その後の組織形成という一連の素過程を獲得できている.なぜ粉体が移動するのかという点については明らかにできていないが,溶融池拡大過程において3つの異なるステージが存在することを得ている.最終年度にて精査する.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに,低速域での溶解・凝固ダイナミクスについての実証的データと伝熱の影響についての基礎的知見が得られている.また,レーザー照射による急速溶解過程においては溶解前組織の濃度不均一を溶解時の液相流動が運ぶことにより,液相中においても濃度不均一が存在することが明らかとなっている.今後は,急速溶解した液相にトレーサー粒子を添加することにより,濃度不均一と液相流動との関係を定量的に明らかにする必要がある.供試材としては引き続き第2世代Ni基超合金,Al-Cu合金およびCu合金を用いる. 低速溶解と急速溶解の大きな違いは,液相中の流動にあると考えられる.そこで,先述のトレーサー粒子の動きと溶解および凝固との関係を,流体解析ソフトを用いて定量化を進める必要がある.さらに拡大光学系を採用し,溶解から凝固へ遷移する際の固液界面における溶断現象がどのように生じるのか,液相流動との関係性について明らかにしていく. 溶解・凝固ダイナミクスに与える伝熱・温度勾配変化の影響は本年度までにその場観察結果から現象を定性的に説明することができている.今後は観察結果に対して伝熱計算を行うことで,温度勾配の変化や固相成長の駆動力の変化に由来する現象を定量的に説明できるようにする必要がある. これらを本年度までの知見と合わせて体系化することで,固液界面を基にした凝固現象における溶解前組織の影響と結果として生じる凝固組織との関係性,すなわち「金属材料における溶解ダイナミクスと凝固ダイナミクスの相互関係の学理」を構築する.
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