2023 Fiscal Year Annual Research Report
ワイドギャップ半導体MOS界面欠陥の正体の横断的解明
Project/Area Number |
20H00340
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤ノ木 享英 (梅田享英) 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (10361354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牧野 俊晴 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究チーム長 (20360258)
五十嵐 信行 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (40771100)
磯谷 順一 筑波大学, 数理物質系, 研究員 (60011756)
染谷 満 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (60783644)
松下 雄一郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (90762336)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ワイドギャップ半導体 / MOS界面欠陥 / 電流検出型電子スピン共鳴分光 / スピン依存チャージポンピング / ダイヤモンド / 炭化ケイ素 |
Outline of Annual Research Achievements |
電流検出型ESR(EDMR)分光を使って以下の3つのMOSFETのMOS界面欠陥の観察を行った。(1)ダイヤMOSFET、(2)炭化ケイ素a面MOSFET、(3)炭化ケイ素p-ch MOSFET。同時にスピン依存チャージポンピング(Spin Dependent Charge Pumping:SDCP)分光装置の開発を行った。 (1)では、ダイヤMOSFETのEDMR分光実験が世界で初めて行われた。MOS界面は産総研-金沢大製のOH終端ダイヤ/ALD-Al2O3界面で、しきい値電圧-3.5V、最大電界効果移動度14cm2/V/sである。バイアス条件を広くふってEDMR実験が行われたもののEDMR信号は検出できなかった。その原因はユニポーラ動作下でしかEDMR実験ができないことにあると推測された。そこで強制的にバイポーラ動作を起こしてEDMR信号を発生させるSDCP分光の開発に取り組んだ。 (2)では、ドライ酸化a面特有の大量の界面準位のEDMR観察に取り組んだが、それに由来する信号は検出できなかった。大量の界面準位は価電子帯端と伝導帯端に偏って分布していると考えられ、実際に、伝導帯端に5e12cm-2台の電子トラップ準位があることを20Kでの電気特性評価で見出した。この準位の起源を第一原理計算で探索して、a面に発生し得るSiダングリングボンド(DB)-炭素DB対であると推定した。 (3)では、p-ch MOSFETのEDMR実験が世界で初めて行われた。その結果、ドライ酸化Si面の界面欠陥による巨大なEDMR信号が観測された(バイポーラ動作条件下)。新規開発したSDCPも適用したところ、巨大なSDCP信号を観測した。EDMR信号とSDCP信号が同じものなのか、信号の起源は何であるのか、n-ch界面の信号とどのように違うのか等が来年度に詳しく検討される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画のハイライトの1つであるダイヤMOSFETのEDMR分光実験を行ったが、残念ながら界面欠陥のEDMR信号は観測されなかった。そのために戦略の変更を余儀なくされた。信号が検出できない原因を調査した結果、ダイヤMOSFETが3端子デバイスであるためにユニポーラ動作下でしかEDMR実験できないことが原因ではないかと見込まれた。そこで、強制的にバイポーラ動作を引き起こすチャージポンピング法とEDMR分光を組み合わせたスピン依存チャージポンピング(SDCP)分光装置を新たに開発した。そのデモンストレーションを炭化ケイ素MOSFETで行ったところ、SDCP信号の検出に成功した。SDCP分光は未知の部分が多いため、炭化ケイ素MOSFETを使ってEDMR分光とSDCP分光とを比較しながら、その素性を明らかにしていく必要がある。 炭化ケイ素MOSFETを使って、n-chとp-chが比較できるEDMR分光データを初めて取得することができた。詳しい解析はこれからの課題であるが、両者の比較によって、伝導帯側と価電子帯側の両方の界面準位の情報が手に入ると見込んでいる。 また、炭化ケイ素において標準面(Si面)と非極性面(a面)を比較できるEDMR分光データも初めて取得された。ここから面方位と界面準位の関係を議論できるのではないかと見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」に述べたように、当初計画にはなかったSDCP分光の開発を行った。この新手法はバイポーラ動作を強制的に励起してEDMR信号(スピン依存電流)を検出するものである。そのデモンストレーションに成功し、巨大なSDCP信号を見ることができた。今後はSDCP分光を新たな武器として、これまで界面信号が未検出のMOS界面(ダイヤMOS界面、窒化ガリウムMOS界面、炭化ケイ素a面MOS界面)を調べていく。 炭化ケイ素p-ch MOS界面では、EDMR分光でもSDCP分光でも巨大な界面信号が検出されている。その信号はn-chの界面信号と異なることが分かっている。p-chは価電子帯の正孔、n-chは伝導帯の電子をキャリアとするので、エネルギー位置の違う界面準位がp-chとn-chで可視化されたのではないかと予想している。それを証明するため、n-chの界面信号のエネルギー位置を決定した手法をp-chにも適用し、p-ch界面信号のエネルギー位置を正確に決定する。また、13C超微細分裂、29Si超微細分裂の解読を行って、p-chの界面信号の起源同定を行う。 以上の過程では、第一原理計算によるエネルギー計算や超微細分裂計算も行う予定である。3種類のワイドギャップ半導体MOS界面(炭化ケイ素、窒化ガリウム、ダイヤモンド)や、伝導帯側と価電子帯側の界面準位を比較議論できるような分光情報の取得を目指していく。
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