2020 Fiscal Year Annual Research Report
X線磁気トモグラフィー法を用いた3次元ナノ磁区構造観察による磁性機能の解明
Project/Area Number |
20H00349
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
鈴木 基寛 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光・イメージング推進室, 主席研究員 (60443553)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関 真一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70598599)
小野 輝男 京都大学, 化学研究所, 教授 (90296749)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 3次元磁区観察 / スキルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、われわれが最近開発した放射光X線による磁気トモグラフィー法を用いて磁性体の内部の磁区構造を直接観察し、バルク磁性体中の3次元的な磁区構造と磁性との関係を解明することを目的とする。この手法をトポロジカル磁気構造(スキルミオンひも)等のエキゾチックな磁性材料に適用し、3次元磁区構造と磁性機能の発現機構とを結びつけて解明する。 2020年度には、磁気スキルミオンひも立体構造の磁気トモグラフィー測定を中心に行った。測定試料として、室温・弱磁場下でスキルミオンを生じる、ホイスラー合金Mn1.4Pt0.9Pd0.1Snの単結晶を用いた。集束イオンビーム法(FIB)により、厚さ数ミクロンのオーダーで厚さ勾配のある試料を微細加工により準備した。 SPring-8での放射光実験では、結晶の[001]方向に磁場を加えながらPt L3吸収端でのXMCD像を取得することで、過去の報告通り直径1μm程度のスキルミオンの発現を確認した。さらに、[001]方向に磁場印加したスキルミオン発現条件を維持した状態で試料を回転させ、磁気トモグラフィーデータを取得した。再構成計算により、[001]方向のスピン成分の3次元的な空間分布を得ることに成功した。その結果、理論的予測のとおり、スキルミオンが実際にひも状の構造を持っていることが直接観察された。また磁場強度を変化させることで、スキルミオンひもが途中で切れたり、2本のひもがY字型に結合したりといった異なるタイプの欠陥構造が生じる現象を観察することにも成功した。 今回のスキルミオンひもの3次元構造の直接観測は、量子ベリー位相に由来した創発磁場モノポールの存在に関する実験的な情報を提供するものである。また、外場による効率的なスキルミオンの駆動といった応用上の課題の解決に向けた基礎となることが期待される重要な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画のうち、磁気スキルミオンひも立体磁区構造の観察に関して、試料作製、微細加工、および特性評価を順調に行うことができた。SPring-8での磁気トモグラフィー測定により、スキルミオンひもの3次元磁区構造を直接観察することに成功した。得られた結果を論文にまとめ、現在投稿中である。以上のように計画通り目的データを取得できたことに加え、論文投稿にまで至っており、当初の計画以上に進展しているといえる。
一方で、強磁場下での磁気トモグラフィー観察法の開発に関しては、磁石設計に関して技術的な課題が多く存在することがわかった。とりわけ試料周りのスペースの制約が厳しく、目的とする2 T以上の磁場を発生する電磁石の設計には至っていない。引き続き検討を行うが、困難である場合には計画の変更もやむをえず考慮する。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、前年度に得られた磁気スキルミオンの解析をさらに発展させるとともに、磁壁ピン留め現象の観察およびトモグラフィー再構成アルゴリズムの改良に取り組む。 (1) 磁気スキルミオンひも立体磁区の外部磁場による構造変化:2020年度には、X線磁気トモグラフィー法により、中心反転対称性の崩れた逆ホイスラー合金単結晶試料を用いて、これまで未解明だったスキルミオンひもの3次元構造を直接観測することに成功した。2021年度は、同試料について、外部磁場によるスキルミオンひもの構造変化を観察する。これによって、スキルミオンひもの特異点の形成・消失過程を3次元的に追跡し、外部磁場と試料膜厚に依存した相図に関する情報が得られると期待される。 (2) GdFeCo磁性膜における湾曲磁壁のピン留め効果:フェリ磁性体合金GdFeCoに弱い外部磁場をかけた条件で、磁壁のピン止め効果の3次元的な可視化を行う。これまでの実験によって、3次元的 な磁壁の湾曲を示唆する予備的な結果を得ている。外部磁場の有無によって湾曲方向が凸面と凹面に変化しており、この曲率変化は欠陥等によるピン留め効果が起因していると考えられる。外部磁場を細かく変化させながら観測を行うことで、3次元的な磁気ピン止め効果の詳細を解明する。 (3) ベクトル磁気トモグラフィーのアルゴリズム開発:磁気トモグラフィーの再構成アルゴリズムを改良し、磁化ベクトルの3成分を計算するプログラムを開発する。共役勾配法に基づく反復近似法を用いる予定である。2021年度には、既存のデータに対して3成分のうち2成分を計算するアルゴリズム開発を行う。
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