2022 Fiscal Year Annual Research Report
Development of theory on sum frequency generation spectroscopy
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20H00368
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森田 明弘 東北大学, 理学研究科, 教授 (70252418)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 分子シミュレーション / 液体界面 / 振動分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
液体の界面は多くの分野にまたがる重要な対象であるが、現象論を超えて精密にミクロな界面現象を解明する試みは、意外なほど未開拓であった。本研究の目的は、液体界面の構造と機能を、分子レベルの精緻な手法と新たな理論的な視点によって格段に解明することである。本研究では、液体界面をミクロに観測できる有力な2大手法といえる和周波分光と分子動力学計算の緊密な協力を遂行できる特長をもち、これは本グループの和周波分光の理論開発によって実現されたものである。今後実験計測との共同研究を含めて液液界面や有機薄膜、電極界面などへと研究対象を展開する。さらに理論面でも、申請者が確立した界面の非線形感受率の理論と計算手法を発展させて、界面分光の基礎にある未解決な問題に取り組み、界面分光の包括的な理解を確立する。 本年度の主な業績は、以下のものが挙げられる。(1)非線形感受率のMD計算における境界条件の問題を解決した。有限サイズの分子シミュレーションから表面の情報を計算するには、バルク領域の漸近的な境界条件が必要となる。その境界条件が計算結果を左右する重要性をもち、本研究はその正しい形を確立するとともに、さらに境界条件とバルク四重極との関係も明らかにした。(2)時間分解和周波分光から示された水表面での光化学反応での特異な反応性に対して、実験計測と共同して反応の機構を分子レベルから明らかにした。反応障壁を決める励起状態の非断熱遷移は溶媒効果に敏感であるため、バルク中とは異なる反応性を水表面で示すことを解明した。(3)振動分光の差スペクトルを計算によって求めるアルゴリズムを大幅に刷新し、赤外・ラマン・和周波分光のいずれに対しても、従来よりも桁違いに効率よく差スペクトルを解析する手法を実現した。(4)その差スペクトルに基づき、実験計測と共同して電解質水溶液内のイオン会合を分光的に検出し解析できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、研究代表者が国際的に先駆けて開発してきた界面分光の理論開発を先導し、界面分光の理論を基礎から包括的に深化することを目指す。本研究課題では、非線形感受率に含まれるバルクの四重極効果も求める手法の開発を進めるとともに、従来の界面分光解析で問題とされなかったフレネル係数の分散の効果の重要性を解明した。これらの理論開発の成果は、単に理論を確立するにとどまらず、実験的な解析にも使いやすい形にプログラムの実装を与えて公開した。 本年度には、上の概要に述べたように非線形感受率の計算に含まれる原理的な曖昧さを解決することに成功した。さらに上記の分光計算手法を、2つの系の間の微小な差スペクトルを効率よく計算する手法に拡張した。これらの進展は界面分光の基礎理論を整備して確立するという当初の研究計画を具現化する成果であり、界面分光の理論での国際的なリードを確立するうえでも重要な成果である。さらに本理論開発をもとに分光実験との共同研究を進め、水の界面における光化学反応機構の解明や電解質水溶液のイオン会合の新たな解析など、当初の発展を超えた成果も得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の残された期間の間には、完全な界面和周波分光の理論の確立に向けて、以下の研究テーマを推進する。 (1) 和周波分光の四重極と磁気双極子効果:近年和周波分光において、従来バルク成分を含む四重極の寄与の重要性が指摘され、当グループではそれを汎用的に計算できるプログラム Qsac を開発した。さらに電気四重極と磁気双極子を含めた四重極の寄与の全体を扱う拡張を進め、和周波分光の界面とバルクの両者を同等に計算して解明する手法の確立を目指す。 (2)中心対称分子の和周波発生の機構の解明:さらにその応用として、中心対称をもつ分子の和周波分光の一般的な解析を行う。和周波シグナルは中心対称のある分子でも多くの例で観測されるが、その機構については界面の環境で対称性が破れて和周波が許容となるのか、高次の四重極の寄与によるのか明らかでない。上の計算手法を用いて多くの中心対称分子に対して両者の寄与を同等に解析し、その機構を一般的に解明する。 (3) キラル系および電子-振動共鳴の和周波分光の理論と計算:本グループが開発した和周波分光の理論計算手法をキラル系へ拡張する。そのためには電子共鳴成分の扱いが鍵となり、その実装をこれまでに完成した。今後は、その扱いを時間相関関数の計算のなかに組み込んで、キラル系の和周波分光の理論計算を実施する。キラル系の和周波分光には基礎的なレベルで未解明の点が多く、理論解析が先導してそれらの問題を明らかにする。
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Research Products
(17 results)