2020 Fiscal Year Annual Research Report
Science of long-term heat storage solids based on physical chemistry
Project/Area Number |
20H00369
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大越 慎一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10280801)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 相転移物質 / 統計熱力学 / 蓄熱錯体 / 第一原理計算 / 外部刺激応答性 |
Outline of Annual Research Achievements |
長期蓄熱固体の実現に向けて、固相において一次相転移を示す錯体の設計および合成を行った。具体的には、スピン転移サイトとなるFeIIとオクタシアノレニウム錯体[ReV(CN)8]3-、3-シアノピリジンを構築素子として用いた新規FeReオクタシアノ錯体を合成した。単結晶構造解析により、FeIIとReVがシアノ基で架橋された2次元シートが層状に積層した構造を有し、その層間にはセシウムイオンが存在することを明らかにした。磁化率の温度変化からは、このFeRe錯体が120 K付近および160 K付近の2か所で段階的にスピンクロスオーバーを示し、各転移において温度ヒステリシスを有することを明らかにした。また、メスバウアー分光を用いて、高温相、中間相、低温相における鉄イオンの電子状態およびスピン状態を明らかにし、結晶構造との比較から2種類存在する鉄イオンサイトが段階的にスピン転移することを示した。さらに、圧力、光に対する応答性を確認するため、圧力印加および光照射磁化率測定を実施した。その結果、圧力印加に伴い転移温度は高温側へシフトし、0.5 GPa程度の圧力印加により、室温までシフトすることを見出した。光照射実験では、1.8 Kにおいて可視光照射することで、低スピン状態(S = 0)であったFeIIサイトが高スピン状態(S = 2)へと変化し、この光照射相が10 Kまで安定に存在することを明らかにした。一方、NiII、ヘキサシアノ鉄[FeIII(CN)6]3-、サイクラムを構築素子として、一次元鎖状NiFe錯体を合成した。本錯体は、降温過程では284 Kにおいて高温相NiII(S = 1)-FeIII(S = 1/2)から低温相NiIII(S = 1/2)-FeII(S = 0)へ相転移し、昇温過程では312 Kにおいて低温相から高温相へ相転移するため、室温において双安定性を示すことが明らかになった。室温双安定性を示す固体物質であることに加えて、圧力、光、脱水・水和による外部刺激により、電荷状態および相転移挙動が変化することを見出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、長期蓄熱固体の実現に向けて、固相において一次相転移を示す錯体の設計および合成を行うことを目的としており、その中で2段階スピンクロスオーバーを示すFeRe錯体(Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 15741)、室温双安定性を示すNiFe錯体(Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 2330)を合成できたことは着実な進展である。これらの錯体は、圧力、光に対する応答性も有しており、外部刺激応答性相転移材料への応用も期待できる物質である。NiFe錯体の成果は、国際学術誌Angew. Chem. Int. Ed.のVery Important Paperに選ばれるとともにBack Coverに掲載された。この他にも、再吸収特性を利用した発光温度計機能を有する希土類錯体など、新しい機能性を有する錯体の合成にも成功しており、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題で得られた相転移物質の知見をもとに、引継ぎ、スピンクロスオーバーまたは電荷移動を示す固体相転移物質の探索を行い、長期蓄熱固体の実現へ向けた材料開発を行う。シアノ架橋型金属錯体においては、Fe(II)サイトにピリジン系配位子を導入することにより、スピンクロスオーバーを発現し易いことから、Fe(II)、ピリジン系配位子、シアノ金属錯体を構築素子とした金属錯体を合成する。一方、電荷移動相転移を示す固体物質の探索においては、Co(II)とオクタシアノ根族錯体やヘキサシアノ金属錯体を原料とした新規シアノ架橋型金属錯体の合成を行う。上述の相転移を示すスピンクロスオーバー錯体および電荷移動錯体において、磁化率温度変化測定、紫外可視分光、赤外分光、ラマン分光などを行い、電子状態、スピン状態、振動モードを明らかにする。また、熱量分析を行い、転移エンタルピーを始めとする熱力学パラメーターを評価し、蓄熱材料としての有用性について検討する。結晶構造が明らかな錯体については、第一原理計算から電子状態やゼロケルビンにおける生成エンタルピーを調べ、物質に備わった熱力学的特性を理論化学の視点から明らかにする予定である。
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Research Products
(54 results)
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[Presentation] Cyanido-Bridged Supramolecular Compound {YbCo2} with Multifunctionalities of Luminescent Thermometry, SMM, and Proton-conductivity2021
Author(s)
J. Wang, J. J. Zakrzewski, M. Heczko, M. Zychowicz, K. Nakagawa, K. Nakabayashi, B. Sieklucka, S. Chorazy, S. Ohkoshi
Organizer
The 1st Asian Conference on Molecular Magnetism
Int'l Joint Research
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