2020 Fiscal Year Annual Research Report
Theory of chemical binding in beyond-Born-Oppenheimer chemistry and its applications to complex molecular systems
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20H00373
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高塚 和夫 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (70154797)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 電子ダイナミクス / 非断熱遷移 / 励起状態化学 / 化学反応論 / レーザー化学 / クラスタ―化学 / 電子移動 / プロトン移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
新しい化学領域「超ボルン・オッペンハイマー化学」,あるいは「非断熱電子動力学理論」で支配される領域の基礎理論を定式化し,原子核の動きと同期して電子波動関数が実時間変動する様子を直接観る方法論の開拓と応用を行っている.これにより,従来の化学理論では得られない化学反応への制御能力や複雑な現象の定性的な予言能力が獲得できる.超ボルン・オッペンハイマー化学(非断熱電子動力学理論)の更なる発展形として,今後の動的電子化学反応学の核心となるどうしても解明しておきたい特徴的な化学結合の本質と,その複雑電子系が作り出す反応場の開拓,に集約して研究を進めている.具体的には,「電子状態がびっしり詰まった擬縮重系の化学結合とその中の化学反応の研究」として,以下の項目を中心課題としている:(A) 励起状態における動的化学結合論.(B) ポテンシャル面が意味をなさない系の化学反応.(C) 外場応答に対して早く反応する電子状態と遅く反応する電子状態が階層性を為す動力学の理論の構築と応用.加えて,複雑分子場中での非断熱電子動力学および励起状態化学を定量的に研究する為に現実に必要となっている方法論の開発と応用を行う.このようにして,我々が開拓してきた「非断熱電子動力学」という新しい化学領域を更に深化している. 本年度は、初年度ということもあり,研究目的に沿った様々な基礎的準備を行った.特に、「進捗状況」欄で記述した面において,化学反応論と量子化学一般に資する重要な展開があった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,本課題の初年度研究として,基礎研究の側面に力点を置いた.特に,超複雑非断熱電子系で起きる電子現象を定性的に理解するための解析手法について検討を行った.その結果,Energy Natural Orbital(ENO)の方法を確立した.ENOは,非断熱電子系ほど複雑ではなくても,通常の量子化学の一般的な解析手法としても使うことができる.例えば,配置間相互作用型の波動関数やクラスター展開した波動関数など,高精度に電子相関を考慮した一般の波動関数の「軌道解析」として使うことができる.近年,高精度を求めるために,定性的理解を犠牲にせざるを得ない大規模な量子化学計算の技術と実際が進展しているが,科学者が本当に欲しいのは,「数字」ではなく,予言可能な「概念」や直感の働く定性的な「理解」であろうと思う.ENOは,その中にあって人間に理解しやすく,かつ,理論的に厳密な方法論を提供する.また,本年度は,化学反応論に革命を起こし我が国最初のノーベル化学賞を受賞した福井謙一のフロンティア軌道理論の第一論文が出版されてから70年目にあたる.この偉大な理論は,しかし,単純分子軌道理論においてHOMO(最高被占軌道)―LUMO(最低空軌道)が明確に定義される場合にのみ有効に働く.先の大規模計算や励起状態化学反応などにおいては,一般にフロンティア軌道を定義するのは難しいし,その有効性は失われる.ENOは,フロンティア軌道理論をその特別な場合として含む極めて有効で解釈がしやすい軌道解析理論である.本課題では,ENOによる一般反応解析や軌道対称性の議論をさらに進め,概略を終了た後,超複雑非断熱電子系の電子波束の解析に進む予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画は、ほぼ順調に進行していると認識している。本課題研究は順調に深化しているばかりではなく、新たな課題や挑戦的領域の拡張が続いている。今後,電子移動などの非断熱電子動力学が,遅い運動のタンパクなどの外場中に埋め込まれている場合のように,分子の電子状態が動力学的階層性を為す系の理論とアルゴリズムの構築を強力に進めたい.特に,我々が開発してきた電子動力学理論を,(とりあえず)密度汎関数法と理論上の改良を加えた上で結合させたい.ただ,本課題の開始の時期にコロナ感染症の広がりと長期化が本格化し,また,我が国に理論化学界における基礎理論の研究者の大幅な減少もあって,優れた博士研究員の採用が難しくなっている現実に直面している.打開策の一つとして,国際的な共同研究を始めることも検討している.
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