2022 Fiscal Year Annual Research Report
Gas-phase spectroscopy of chemical intermediates produced in solution
Project/Area Number |
20H00374
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
井口 佳哉 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (30311187)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村松 悟 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (40837796)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 反応中間体 / エレクトロスプレー / 光化学反応 / 気相分光 / イオントラップ / 質量分析 / 紫外分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
合成有機化学などにおいて,多くの化学反応は溶液中で行われる。本研究の目的は,この溶液中で起こる化学反応の反応中間体を真空装置内に導入し,その質量スペクトルを観測するとともに極低温気相分光を実施することである。これにより,反応中間体の分子量,電子状態,幾何構造を決定し,これらの情報をもとに化学反応機構を分子レベルで明らかにすることを目的とする。2022年度は,(1)2種類の溶液を混合することで開始される化学反応の反応中間体の検出,および(2)反応溶液の光照射により生成する光化学反応中間体の検出,の2つのテーマに取り組んだ。(1)の研究では,有機化学において非常に重要な反応である鈴木―宮浦カップリング反応の中間体の検出を試みた。鈴木―宮浦カップリング反応において使用されているPd触媒の一種であるG3触媒の溶液と,触媒反応を開始させる塩基を混合して生じる中間体を質量分析により検出することに成功した。真空中で捕捉し極低温冷却した中間体に紫外領域のレーザを照射し,生じる解離生成物を検出して,中間体の光解離スペクトルを観測した。その結果,300 nmから短波長にかけて非常に強い吸収が観測された。当該中間体の量子化学計算により得られた理論スペクトルと実験で得られた光解離スペクトルを比較することにより,中間体中のPdの電子状態に関する知見を得ることに成功した。また(2)の研究では,2021年度に成功していたジシアノベンゼンの光化学アリル化反応を,ナフタレン骨格をもつものへと拡張し,その反応中間体の質量分析による検出と光解離スペクトルの観測に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度も,前年度と同様,溶液中で引き起こされる化学反応中間体の質量スペクトルの観測と,その極低温気相分光実験を行うことを目標とした。2022年度は,特に以下の2つのテーマに取り組んだ:(1)2種類の溶液を混合することで開始される化学反応の反応中間体の検出,(2)反応溶液の光照射により生成する光化学反応中間体の検出。(1)の研究では,有機化学において頻繁に利用されている鈴木―宮浦カップリング反応の中間体の検出を試みている。鈴木―宮浦カップリング反応において使用されているPd触媒の一種であるG3触媒の溶液と,触媒反応を開始させる塩基を混合して生じる中間体を質量分析により検出することを試みた。その結果,中間体は溶液中だけでなく,G3触媒が真空中で残留ガスと衝突することによっても生じることが明らかとなった。また真空中で捕捉し極低温冷却した中間体に紫外領域のレーザを照射し,生じる解離生成物を検出して,中間体の光解離スペクトルを観測した。その結果,300 nmから短波長にかけて非常に強い吸収が観測された。中間体の量子化学計算により得られた理論スペクトルと実験で得られた光解離スペクトルを比較することにより,中間体中のPdが酸化数0の電子状態にあることが明らかとなった。また(2)の研究では,2021年度に成功していたジシアノベンゼンの光化学アリル化反応を,ナフタレン骨格をもつものへと拡張し,その反応中間体の質量分析による検出と光解離スペクトルの観測に成功した。ジシアノベンゼンと比較して,ジシアノナフタレンは様々な中間体を形成する可能性があったが,質量分析および光解離スペクトルの結果から,環状構造をもつ中間体が優先的に生成していることが明らかとなった。この様に,2022年度の目標であった溶液中に生じる化学反応の中間体の気相分光に成功していることから,研究は順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度までに,光照射により誘起される光化学反応,および溶液混合により開始される化学反応の中間体の気相分光に成功した。2023年度は,中間体として様々な化学反応でその存在が予測されながら,その反応性の高さと寿命の短さから検出が困難であった,ラジカルイオンの質量分析による検出と気相分光に挑戦する。 この実験では,エレクトロスプレーイオン化法をベースにした,反応中間体であるラジカルイオンを生成させるための新規イオン源の開発を行う。この実験では,エレクトロスプレーイオン化法の一種であるペーパースプレーイオン化法と可視レーザを組み合わせ,溶液中に存在する分子のラジカルイオンを効率的に生成させる予定である。このイオン源を用いて,まず芳香族分子のラジカルイオンを生成させ,その気相分光に取り組む。ラジカルイオンは以前から超音速ジェット法と電子衝撃イオン化法を組み合わせた方法により真空中での生成が試みられてきたが,この方法では分子を加熱し気化して真空中に導入する必要があり,熱分解するなどの問題があった。一方,本研究で開発予定のイオン源では,溶媒に溶解するすべての分子に適用可能であり,ラジカルイオンの分光にブレークスルーをもたらす可能性がある。また我々の気相分光は極低温(~10 K)冷却環境下で行うことが特長であり,これまでのラジカルイオンの分光研究では観測不可能だった電子励起状態の詳細な情報を得られる可能性がある。2023年度はこのラジカルイオンの気相分光に注力して研究を推進する予定である。
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Research Products
(32 results)