2021 Fiscal Year Annual Research Report
表面偏析単分子膜を用いた有機半導体薄膜構造の精密制御とその応用
Project/Area Number |
20H00393
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
但馬 敬介 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (90376484)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 有機半導体薄膜 / 自発配向分極 / 磁気抵抗 / 結晶化 / キラリティ / 表面偏析単分子膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、有機薄膜中の自発配向分極(SOP)に及ぼす分子内相互作用の影響を明らかにするため、N-フェニル部位にエチル基を有するTPBiの3種異性体誘導体の合成を行った。その結果、TPBi誘導体の薄膜は、無置換TPBiの1.8倍の表面電位変化を示し、これまで報告されている中で最大の電位変化(+141.0mV/nm)を示した。密度汎関数計算と単結晶構造解析から、エチル基の導入により、安定な分子構造がC1対称性からC3対称性に切り替わることが示唆された。分光エリプソメトリーや2次元微小角入射X線散乱による薄膜の構造異方性の解析から、分子のコンフォメーション変化がSOP向上の主要因であると結論づけた。 また、キノイド型ベンゾジチオフェン構造を基に、高い半導体性能を持つジラジカル分子を合成した。量子化学計算と可変温度電子スピン共鳴により、ジラジカルの性質を調べた。この分子を用いたダイオードデバイスは、100 mT以下の磁場において、測定温度に強く依存した大きな電流変化を示した。高温で三重項ジラジカルの集団が増加すると、磁気伝導度(MC)値が増加した。その結果、120 ℃で-19.4%のMCが達成され、これはこれまで有機分子で観測された最大の負のMCであった。MCと三重項ジラジカル濃度の間に強い相関があることから、ジラジカロイド中の電荷伝導はスピンブロッキング機構によって抑制されており、超微細磁場の磁気的変調によってその機構を制御することができることが示唆された。この化合物は高い結晶性の薄膜を形成し、有機電界効果トランジスタにおいて高い単極性電子輸送性を示し、edge-cast膜の平均移動度は1.01cm2 V-1 s-1であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分子内の相互作用によってコンフォメーションを変化させ、薄膜の自発配向分極を増強するという全く新しい原理を実証することに成功した。また、キラリティを持たない有機半導体薄膜でもスピン反応の選択性から磁気抵抗効果が見られることをヒントに、ジラジカル分子が大きな磁気抵抗を示すことを発見した。これらの成果は、有機半導体を基にしたデバイスの新たな機能につながるものと期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果を基に、より高精度の薄膜構造を制御するための表面偏析単分子膜の分子設計を進める。具体的には、分子間の水素結合を持つ表面偏析分子を設計・合成し、熱安定性に優れた表面偏析単分子膜の形成と、熱処理による分子結晶化の誘起・配向性制御を目指す。また、新たに発見したジラジカル分子の磁気抵抗性を基に、さらに大きく磁場に応答する有機デバイスの材料を開発する。表面からの薄膜結晶化に加えて、キラリティ誘起とそれに伴うスピン分極の達成なども目指す。
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Research Products
(9 results)