2023 Fiscal Year Annual Research Report
表面偏析単分子膜を用いた有機半導体薄膜構造の精密制御とその応用
Project/Area Number |
20H00393
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
但馬 敬介 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (90376484)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 有機薄膜 / 自発配向分極 / 配向 / 結晶化 / キラリティ / 表面偏析単分子膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
新たな絶縁性の表面偏析分子として、ビフェニルとフルオロアルキル鎖からなる棒状分子を合成し、その表面偏析挙動を調べた。この分子は、スピンコート中にポリ(3-ヘキシルチオフェン)フィルム表面上で自発的に緻密な表面偏析単分子膜(SSM)を形成した。高密度で特異的な分子配向を持つSSMの形成は、X線光電子分光法(XPS)、水接触角測定、原子間力顕微鏡(AFM)によって確認した。またSSM内の分子双極子モーメントの配向はイオン化ポテンシャルを著しく増大させることが明らかになった。有機半導体膜の界面にこのSSMを導入すると、界面真空準位シフトを持つ絶縁薄膜に由来するトンネル接合が形成された。その結果、界面双極子モーメントの方向によって変化する非対称な電流-電圧特性が得られた。この結果は、SSMを用いた特異な性質を持つ有機電子デバイスにつながると期待できる。 また、現在有機太陽電池の電子アクセプターとして広く用いられているY6分子に類似した構造を持つフルオロアルキル基含有分子(Y6-Rf)を合成し、Y6と混合した溶液を基板上にスピンコートすることで、Y6-RfのSSMを上部に有するY6薄膜を形成した。 SSMの形成はXPSによる表面F/C比率の濃度依存性、および角度分解 XPSにより確認した。二次元微小角入射広角X線散乱(2D-GIWAXS)により薄膜中のY6の配向性を評価した結果、Y6薄膜はπ平面が基板に平行に配向したface-on配向であったが、Y6-RfのSSMの存在によりπ平面が基板に垂直に配向したedge-on配向が誘起された。また、Y6薄膜を熱処理することで、Y6薄膜が結晶化することが明らかになった。この結果は、SSMからのY6の配向・結晶構造制御が可能であることを示している。今後は有機太陽電池や電界効果トランジスタへの応用により、薄膜構造と性能との相関を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初設計した絶縁性の単分子膜の分子設計は、分子間相互作用が小さいためにうまくSSMを形成できなかったが、ビフェニルを導入することで液晶のような二次元相互作用を誘起することができ、SSMを形成することができた。また、新たに設計したY6分子はデバイス応用の上でも大変興味深い展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度中に進めてきた絶縁性の表面偏析単分子膜のデバイスの応用について、大きな界面ダイポールモーメントによる1.5 eVに及ぶ真空準位のシフトをを利用して有機半導体中での非対称なトンネル接合としての利用を検討する。特に、表面単分子膜を持つ有機薄膜を多層に積層することで整流効果を増大させる可能性について検討する。また、昨年度に新たに発見したn型半導体分子(フッ素化アルキルを導入したY6と呼ばれる分子)の表面偏析膜からの結晶化誘起について、さらに詳しく調査する。具体的には、分子中のフッ素化アルキルを導入する位置を変えることで、表面偏析分子の構造や表面での分子配向が結晶化挙動に及ぼす影響を調査する。分子中で相互作用しやすい周辺部分を単分子膜の下部に配置することで、表面からの結晶化が促進されることが考えられ、よりドラスティックな構造変化が期待できる。これらの結晶化した半導体層を用いて有機薄膜太陽電池や有機電界効果トランジスタの作成を行い、薄膜構造制御による性能の向上を目指す。キラリティを有する分子を用いた表面偏析単分子膜や、ねじれによるキラリティを有する有機界面の創出を目指し、新しい分子設計と薄膜の作成方法を検討する。分子設計に関しては、π共役系のねじれを誘起しつつ、2次元での単分子膜の形成が可能な分子設計が必要となるが、現行のY6系をベースとしたn型半導体分子を基に設計を行う。また、一軸配向性を持つ半導体高分子の積層を、軸をねじりながら複数回行うことで、膜の界面でのキラリティを有する薄膜の作成を行う。これらの有機薄膜において、電荷輸送の磁場依存性を測定し、電子スピン選択による磁気抵抗効果の観測を目指す。
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