2022 Fiscal Year Annual Research Report
骨格筋機能の分子基盤解明と健康寿命延伸に資する機能性食品の創出
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20H00408
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 隆一郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任教授 (50187259)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 骨格筋 / ヒトiPS細胞 / エクソソーム / マイオカイン / 機能性食品 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)マイオカインのマイオスタチン、GDF11の筋萎縮作用の解析 ヒトiPS細胞由来骨格筋細胞を用い、2種類のマイオカインがSmad2/3シグナル系を介して筋萎縮を引き起こす機構を明らかにし、論文を発表した。フレイルの高齢者で認められる極めて低い濃度(0.5から1ナノグラム/ミリリットル)のGDF11でも筋萎縮が引き起こされることを明らかにした。また、この病態生理的な濃度のGDF11が、筋萎縮を惹起するSmad2/Smad3を活性化し、筋タンパク質の分解を担うAtrogin-1の発現を亢進することを見出した。さらに、GDF11によるAtrogin-1の発現上昇に関与する転写因子としてFOXO1を同定するとともに、FOXO1を阻害することでGDF11やマイオスタチン依存的な筋萎縮が抑制されることを明らかにした。 (2)老化骨格筋細胞の樹立と老化促進機構の解析 ヒトiPS細胞由来骨格筋細胞とC2C12筋管細胞にX線照射、DNA障害薬物処理を施し、老化マーカーの追跡を行った。ヒトiPS細胞由来骨格筋細胞においてp21などの良好な老化応答が認められた。X線照射、DNA障害薬物処理のいずれにおいても細胞内のシグナル分子のリン酸化が検出され、老化シグナル経路の一部が明らかになった。さらにその下流と想定される因子についても経日的に上昇が認められ、DNAダメージを引き金として応答カスケードが駆動される概要が明らかになりつつある。さらに培養上清を回収し、プロテオーム解析を試みた。その結果、サイトカイン活性、細胞外マトリクスの上昇が確認され、これまでの公表論文報告とも一致する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトiPS細胞由来の分化骨格筋細胞とマウス筋管細胞C2C12を用いた種々の実験結果より、それぞれの実験系の応答性の差異が次第に明らかにされてきた。ヒトiPS細胞由来骨格筋細胞は筋萎縮を促すマイオカインに対して感受性が良好であることが明らかになった。その結果、GDF11とマイオスタチンの筋萎縮作用の解析結果を論文として公表することができた。 ヒトiPS細胞由来骨格筋から老化細胞を作成してその機能を解析する研究については、X線照射、薬物処理により老化応答が認められ、C2C12細胞を用いる実験系より再現性のあることが確認されている。さらに今後はSASP刺激による老化細胞の樹立を試みる必要がある。 運動による骨格筋機能改善効果についても2種類の実験系を用いて、運動効果を効率よく再現できる実験系の構築が必要である。in vivo実験としてはトレッドミルを用いた運動負荷試験とC2C12細胞を用いた細胞実験との併用により解析を進めていくことにより重層的な解析が可能になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)老化培養細胞の樹立と機能解析 ヒトiPS細胞由来骨格筋細胞をX線処理により老化様細胞を樹立することに成功した。複数の老化マーカー因子の増減が確認され、細胞内シグナル伝達経路の活性化が認められた。この知見に基づき複数のポイントでこのシグナル伝達系を遮断する手法により、老化進行が減弱するかについての解析を進める。さらにマウス由来のC2C12細胞においても老化様細胞の樹立を進る。これまでの結果より同一手法では十分な老化進行が認められないことより、複数の薬物刺激等を交えた方法で老化進行を試みる。C2C12細胞を用いてのモデル系の樹立は、マウスを用いたinvivo実験と併用できる点で有用性があり、ヒトiPS細胞実験と並行して進める。 (2)マイオカインのマイオスタチン、GDF11の筋萎縮作用を標的にした食品成分探索 マイオカインは筋量制御に重要な役割を演じており、この作用を抑制する食品成分には高齢者の筋量を維持する機能が期待される。Smad結合モチーフを複数個連結したレポーター遺伝子を用いたルシフェラーゼアッセイ系を構築しており、この系を用いて約500種類の食品成分について、マイオスタチン作用を減弱させる成分の探索を進める。さらにその作用様式についての解析を行う。 (3)運動刺激により上昇するマイオカインの機能解析 運動は骨格筋機能、筋量維持に重要な働きをする刺激である。運動負荷マウス、電気刺激を与えたC2C12細胞を用いて、運動により惹起されるマイオカイン分泌を追跡する。さらに培養細胞を用いて、RNA-seq手法により運動により活性化される遺伝子群を見出しており、マイオカイン分泌と運動刺激を結び付ける経路の分子機構の解析を進める。新たな機能性食品成分の標的分子の同定を目指す。
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Research Products
(12 results)