2020 Fiscal Year Annual Research Report
魚類における耐病性責任遺伝子の同定と新規疾病が野生集団に与える遺伝的影響の解析
Project/Area Number |
20H00431
|
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
坂本 崇 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40313390)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 豪司 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (50624219)
中本 正俊 東京海洋大学, 学術研究院, 博士研究員 (80447721) [Withdrawn]
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 耐病性 / 責任遺伝子 / 遺伝的影響 / ゲノム / 自然選択 / 魚類 / アユ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、魚類における細菌性疾病に対する耐病性形質の責任遺伝子を同定し、耐病性メカニズムを明らかにすると共に、その責任遺伝子を用いて、自然河川で発生した新規疾病による野生集団への遺伝的影響を明らかにすることを目的とする。 1. 魚類における細菌性疾病に対する責任遺伝子の同定・・・耐病性責任遺伝子が存在すると考えられるゲノム領域にある一塩基多型(SNP)69箇所を同時に次世代シーケンサーで解析を行うことができるターゲットリシーケンス解析法を開発した。また、多摩川で採捕された天然個体において、冷水病人為感染実験を実施し、その生残個体および死亡個体を用いて解析を行った。その結果、解析したSNPと耐病性形質と関連性が示唆された。 2. 魚類における細菌性疾病に対する耐病性メカニズムの解明・・・耐病性責任遺伝子が存在すると考えられるゲノム領域で、DNA配列情報からで責任遺伝子候補として強く考えられる2つの遺伝子について各組織における転写量をqRT-PCRで解析した。その結果、1つは心臓のみで非常に高い発現レベルを示した。一方で、もう一方は末梢血白血球および脾臓で発現レベルが顕著に高く、免疫関連細胞で発現することが強く示唆された。そこで、パーコール密度勾配遠心法でアユの末梢血白血球を分画し、各白血球分画におけるの発現レベルを解析した。その結果、この遺伝子は免疫関連細胞における遺伝子発現レベルが高く、細菌性冷水病耐病性形質に強く関与すると考えられた。 3. 自然河川で新規に発生した疾病が野生集団に及ぼす遺伝的な影響の解明・・・本研究では、富山県庄川で採集された流下仔魚を解析する。新型コロナウイルス感染症による影響による研究協力者の事情により成果取りまとめに不可欠な予備実験が困難となり、繰越申請を行ったが、その後に順調に実施し、計画通りにDNA抽出、PCRなど解析条件を確立した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、世界初となる魚類における細菌性疾病に対する耐病性形質の機能を担う責任遺伝子を同定し、これまでに未解明な細菌性疾病に対する耐病性メカニズムを明らかにすることを目的としている。また、耐病性責任遺伝子を同定することによって、これまで未解明な自然河川で発生した新規疾病による野生集団への遺伝的影響を明らかにすることを目的する。本目的のために、本年度は3項目を実施計画とした。研究項目1. 魚類における細菌性疾病に対する責任遺伝子の同定では、耐病性責任遺伝子が存在すると考えられるゲノム領域にある一塩基多型(SNP)69箇所を同時に次世代シーケンサーで解析を行うターゲットリシーケンス解析法を開発することができ、さらに、解析したSNPにおいて病性形質と関連性が示唆されたことから、十分に目標を達成したと考えられた。また、研究項目2. 魚類における細菌性疾病に対する耐病性メカニズムの解明においても、候補遺伝子の発現解析および白血球分画での詳細解析により、1つの候補遺伝子では、免疫関連細胞における遺伝子発現レベルが高く、細菌性冷水病耐性に強く関与すると考えられたことから、十分に目標を達成したと考えられた。研究項目3. 自然河川で新規に発生した疾病が野生集団に及ぼす遺伝的な影響の解明については、新型コロナウイルス感染症による影響による研究協力者の事情により成果取りまとめに不可欠な予備実験が困難となり、繰越申請を行ったが、その後の研究実施によって、当初の計画通りにDNA抽出、PCRなど解析条件を確立できたことから、目的を達成したと考えられた。以上のことから、本研究課題の進捗状況については、当初の計画を上回る成果もあると考えられるが、総合的に「おおむね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究項目1. 魚類における細菌性疾病に対する責任遺伝子の同定については、サンプル数を増やして解析し、関連性が示唆されたSNPのより明確な結果を得るために研究を実施する予定である。 研究項目2. 魚類における細菌性疾病に対する耐病性メカニズムの解明については、遺伝子の機能解析を実施するためのツールとして、細菌性冷水病耐病性形質に強く関与すると考えられた遺伝子について、その遺伝子産物に対するモノクローナル抗体の作製を試みる予定である。 研究項目3. 自然河川で新規に発生した疾病が野生集団に及ぼす遺伝的な影響の解明については、これまでの分子遺伝学的解析で耐病性形質との関連性が示唆されたSNPが存在する候補遺伝子を中心に、解析を実施する予定である。 研究項目4. 責任遺伝子を用いた野生個体から耐病性魚を遺伝子選抜する新規育種技術の開発については、連携先と協議し、野生個体にピットタグを装着し、耐病性責任遺伝子候補のDNA配列情報から耐病性形質を保持する親魚候補(耐病性区)および耐病性形質を保持しない親魚候補(感受性区)を選抜・交配する予定である。
|