2020 Fiscal Year Annual Research Report
スズキ資源の安定性を支える柔軟な河川利用生態の解明
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20H00432
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 洋 京都大学, 森里海連環学教育研究ユニット, 特任教授 (60346038)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三田村 啓理 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (20534423)
渡邊 俊 近畿大学, 農学部, 准教授 (60401296)
鈴木 啓太 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (80722024)
和田 敏裕 福島大学, 環境放射能研究所, 准教授 (90505562)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スズキ / 部分両側回遊 / 森里海連環学 / 河川利用 / 耳石解析 / 安定同位体比分析 / 環境DNA分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
沿岸漁業漁獲量が減少し続ける中で、スズキの資源水準が長期的に安定している原因が、本種による河川利用にあるという仮説を検証することを研究目的としている。仙台湾、丹後海、別府湾の3水域をフィールドとして、どの発育段階や年齢で、どのくらいの割合が、どのようなタイミングで河川を利用するのかという生態特性を調査し、繁殖と生き残りにおける河川利用の生態学的意義を明らかにする。 3水域で採集したスズキ成魚84個体(標準体長388-736mm、年齢3-23歳、仙台湾21個体, 丹後海38個体, 別府湾25個体)の耳石を年齢査定し、耳石Sr/Ca比をEPMAにより点分析した。その結果、幼稚魚期(0歳魚期)に河川(汽水域+淡水域)を利用した個体の割合は、仙台湾52%、丹後海61%、別府湾36%であった。河川利用個体の割合は年齢とともに減少し、0歳魚の平均51%から5歳魚では17%となった。成熟する3歳前後まで、河川利用個体に雌雄差は見られなかったが、4歳以降は雌の割合が増加した。2歳以上で河川を利用した個体のうち、約8割は幼稚魚期にも河川を利用しており、幼稚魚期に河川を成育場とした個体が成体でも河川に遡上する傾向が認められた。 スズキ成魚の行動と環境要因との関係を調べるため、由良川の河口から48km上流までの12地点に超音波受信機を設置した。2020年10月-2021年3月の間に由良川及び近隣の河川で釣りにより採集したスズキ成魚24個体に超音波発信機を装着して、由良川中流域に放流した。10-11月に放流した17個体中追跡できた13個体では、7個体が12月初旬までに降海し、6個体が冬季にも由良川に残留した。降海した7個体のうち3個体は翌年春-夏季に由良川に再遡上した。耳石Sr/Ca比分析とバイオテレメトリーデータを総合することにより、スズキ成魚の河川利用行動の詳細が解明できると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
仙台湾、丹後海、別府湾内で漁獲されたスズキ成魚の耳石について、核から少なくとも5歳まで各年輪内に52測点を設けてSr/Ca比を分析することができた。これにより、海域に生息する成魚の河川利用履歴が個体ごとに解明され、どれくらいの割合の個体が河川を利用するのかに加え、河川遡上個体の性差、遡上年齢と時期、河川への固執性などを詳しく解析することが可能となった。また、バイオテレメトリーによる行動追跡を由良川で実施中である。調査域には河川漁業がほとんど存在しないことから、河川内に生息する発信機装着用のスズキ成魚の採集は、調査員が独力で釣る以外に方法がない。それでも2020年度の秋-春季に24個体を生かして捕獲し、発信機を装着して放流することができた。2021年度も同数程度の発信機装着個体の放流を計画している。河川に生息するスズキ採集と並行して、2020年9月以降毎月丹後海の定置網で漁獲されるスズキ成魚を購入し、サイズ、性、生殖腺の状態を調べており、本種の繁殖生態の知見の集積が進んでいる。さらに、由良川及び丹後海で採集され耳石解析により行動履歴のわかっている個体について、筋肉や肝臓の安定同位体比分析を進めており、回遊による生息域の変化と食性の変化との関係が明らかになると期待している。2020年3月から2021年3月まで、由良川の河口から最初のダムまでの間に18定点を設けて1-2ヶ月に1回採水を行い、環境DNA法によりスズキの河川内分布の季節変化を分析中である。コロナ禍で、予定していた仙台湾及び別府湾流入河川での調査を行うことができなかったため、京都大学のルールに従って京都府内にある由良川において調査を集中的に行ったが、初年度としては来年度に向けて様々な試行と十分な準備を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
スズキの河川利用生態を調査し、本種の繁殖と生き残りにおける河川利用の生態学的意義を明らかにすることを目的として研究を進める。研究フィールドは、仙台湾、丹後海、別府湾の3水域であり、3水域に注ぐ河川に生息するスズキ、及び丹後海では湾内に生息するスズキを採集して研究に供する。主要な研究手法は、バイオテレメトリー、耳石微量成分分析、安定同位体比分析、環境DNA分析の4手法である。環境DNA分析の適用は当初の研究計画にはなかった項目だが、本手法によりスズキ個体群の河川利用の季節変化を広域的に追跡することができる。一方、幼稚魚と成魚について研究を進める計画であったが、コロナ禍で調査活動が大きく制限されていることから、すでに先行研究により知見の集積のある幼稚魚については対象から外し、ほとんど知見のない成魚の河川利用生態に焦点を絞ることとした。なお、耳石微量成分分析により、幼稚魚期の成育場環境を推定することが可能である。バイオテレメトリーについては、2021年度も釣獲により生きたスズキ成魚を採集し、由良川における超音波発信機装着スズキの合計放流数を50個体としたい。また、2020年度放流分も含め、受信データの解析により本種の河川遡上行動生態を追跡する。さらに、由良川に加えて、仙台湾及び別府湾に流入する河川において、現地の調査協力者が河川に生息するスズキ成魚を捕獲する計画である。これらは、とくに耳石微量成分分析用として利用する。また、丹後海で発信機装着個体が漁業者により捕獲されており、それらの個体については、受信した行動記録と耳石微量成分分析から推定される河川回遊との関係をつき合わせ、実際の回遊行動と耳石に環境データが記録されるタイムラグの推定が可能となる。安定同位体比分析についても、耳石による行動履歴解析結果との対比から、生息域の変化に対する安定同位体比の応答を調べることができる。
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Research Products
(3 results)