2021 Fiscal Year Annual Research Report
Understand molecular mechanisms underlying endosymbiosis of aphids by using genome editing
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20H00478
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
重信 秀治 基礎生物学研究所, 新規モデル生物開発センター, 教授 (30399555)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 共生 / ゲノム編集 / アブラムシ / 社会性 / プロモーター |
Outline of Annual Research Achievements |
半翅目昆虫アブラムシとその細胞内共生細菌ブフネラはお互い相手なしでは生存が不可能なほど緊密な相互依存関係にあり、共生研究のモデル系として広く研究されている。しかし、アブラムシにはRNAiが効きにくいなど、効果的な遺伝子機能解析の技術がなかった。私たちは最近、エンドウヒゲナガアブラムシにおいてCRISPR/Cas9ゲノム編集の技術を確立することに成功した。本研究ではこのゲノム編集技術を最大限に活用し、アブラムシの「共生遺伝子」を同定し、その機能を明らかにすることを目標とする。 2年目となる今年度は、すでにゲノム編集が確立しているCRISPR/Cas9 NHEJ法を用いて、共生遺伝子の候補遺伝子数個のノックアウト実験を昨年に引き続き行なった。昨年G0世代で興味深い表現型を示した遺伝子Xについては、さらに生殖系列変異系統を複数確立し、G1ノックアウトを作出し、表現型を評価した。その結果、ノックアウト個体では共生細菌が消失する表現型が観察され、この遺伝子は共生細菌との共生に必須の共生遺伝子であると結論された。今年度は新たな変異体系統の作出にも成功した。 ゲノム編集のさらなる高度化を進めた。昨年度アブラムシ細胞内で動くプロモータ配列約2kbの同定に成功していたが、今年度はその領域のどの部分がプロモータ活性に必須か、コアプロモーター配列の探索を行なった。同定したプロモーターを用いてノックイン技術の開発を進めている。その他の技術開発として、顕微鏡下でのマニュアル操作によるシングルセルRNA-seq解析技術の開発に成功し、共生器官細胞に本技術を適用しているところである。 本課題に関連するアブラムシと共生細菌のゲノム科学の現状を網羅した総説論文を発表した。また、社会性アブラムシであるササコナフキツノアブラムシもモデル化し、不妊カーストの生殖細胞形成の制御を解明し論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ゲノム編集CRISPR/Cas9 NHEJ法を用いた遺伝子のノックアウトはルーティンワークとして進められるほど確固たる系が確立でき、中でも遺伝子Xのノックアウトでは、共生が破綻するという期待通りの表現型を得ることができており、インパクトのある発表ができると期待している。一方、遺伝子のノックインは試行錯誤が続いているところである。今年度は本課題に関連する論文発表を4件も行うことができたのは大きな成果と言える。シングルセルの解析手法の技術を開発できたことも大きな前身である。まず、アブラムシと共生細菌のゲノム科学の現状を網羅した総説論文を発表した(Shigenobu and Yorimoto, Current Opinion in Insect Science, 2022)。この総説論文は本研究の比較ゲノム解析による新たな共生遺伝子の探索につながる重要な基盤である。次に、社会性アブラムシであるササコナフキツノアブラムシもモデル化し、不妊カーストの生殖細胞形成の制御を解明し論文を発表した(Chung and Shigenobu, Insect Biochemistry and Molecular Biology, 2022)。これ以外にも、in pressの論文や、投稿間近の原稿があり、開発段階の研究と、取りまとめ段階の研究がバランスよく進捗していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1:ゲノム編集による「共生遺伝子」候補の機能解析:私たちはすでに共生器官のトランスクリプトーム解析等を通して「共生遺伝子」の有力候補を多数リストにしている。本研究ではゲノム編集を用いてこれらの遺伝子をノックアウトして、ブフネラとの共生に与える影響を調べる。表現型として以下をリードアウト として、共生に対する影響を評価する。i. ブフネラの数や形態。ii. アブラムシの成長に対する影響。iii. 共生器官の遺伝子発現及び形態。これまでの2年間ですでに複数の変異体の作出に成功しているので、今年度はさらに多角的に表現型を解析するとともに、新たな変異体の作出も進める。今年度は、パラログの複数遺伝子のノックアウトなどより高度なノックアウトにも挑戦する。
研究2:新規の「共生遺伝子」・「共生因子」の探索:研究1ではこれまでに申請者が蓄積してきたデータに基づいてすでにリストにある共生遺伝子候補を解析対象としたが、研究2では新しいゲノミクスのデータや手法を用いて、新規に「共生遺伝子」や「共生因子」を探索する。2年目に開発に成功したシングルセル解析法や、ATAC-seqなどのデータ解析を進め、それらから新たな候補遺伝子を探索する。また、前年度総説論文に総括したとおり多くのアブラムシゲノムが解読され比較ゲノムアプローチがよりスムーズに行える環境が整った。
研究3:ゲノム編集技術の高度化:私たちはすでにアブラムシでCRISPR/Cas9ゲノム編集によるNHEJ (non-homologous end joining) を介した高効率ノックアウトの 技術を確立している。これを基礎にしてゲノム編集のさらなる高度化を進める。特にノックイン技術の開発に重点的に取り組む。新たな取り組みとして、共生細菌側の遺伝子のノックダウンの技術開発にも着手する。
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