2020 Fiscal Year Annual Research Report
システミックな細胞競合制御によるがん抑制機構の遺伝学的解明
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20H00515
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞競合 / がん / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮組織において極性が崩壊した細胞は過剰に増殖し腫瘍を形成するが、周囲を正常細胞に囲まれると細胞競合により排除される。これまでに、競合する極性崩壊細胞と正常細胞の間の細胞動態が解析されてきたが、生体内環境がいかにして細胞競合の誘発の有無を決定するのかは不明であった。研究代表者らは最近、ショウジョウバエ個体内のインスリンペプチドの循環量が上昇した状態(高インスリン血症)では細胞競合が起こらず、極性崩壊細胞が過剰に増殖して腫瘍を形成することを見いだした。さらにそのメカニズムとして、通常極性崩壊細胞はタンパク質合成能が低下し細胞競合により排除されるが、高インスリン血症の状態ではインスリン感受性が亢進してタンパク質合成能が上昇し、これにより細胞競合が破綻して腫瘍化することがわかった。そこで本研究では、①極性崩壊細胞がタンパク質合成を低下させるメカニズム、②極性崩壊細胞が生体内循環インスリンレベルの上昇に応答してインスリン感受性を亢進させるメカニズム、および③タンパク質合成の増大が細胞競合の敗者-勝者逆転現象を引き起こすメカニズムの3点を明らかにすることを目的とする。令和2年度はまず、これらのメカニズムに関わる遺伝子群を探索するためのショウジョウバエ遺伝学的スクリーニング系を構築した。具体的には、apico-basal極性遺伝子scribのノックダウン細胞(極性崩壊細胞)クローンをショウジョウバエ複眼原基にモザイク状に誘導して起こる細胞競合モデル系において、変異クローン内にCRISPR-Cas9ノックアウト系統ライブラリーを用いて任意の遺伝子変異をホモ接合に導入するスクリーニング系を構築した。一方、極性崩壊細胞がタンパク質合成を低下させるメカニズムとして、変異細胞内で翻訳開始因子eIF2aのリン酸化を介した翻訳抑制が起こっている可能性を見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記①~③を明らかにするためには、まずこれらの現象に必要な遺伝子群をショウジョウバエ遺伝学的スクリーニングにより網羅的に単離・同定することが効率的であると考えられる。そこで令和2年度は、本スクリーニング系の構築を試みた。本スクリーニング系は複雑な遺伝学的解析システムを含有することから、その構築は容易ではなかったが、何度かのトライアルを経て構築に成功した。また、極性崩壊細胞がタンパク質合成を低下させるメカニズムとして、翻訳開始因子eIF2aのリン酸化という重要な可能性を見いだした。以上の経過から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今回構築に成功したショウジョウバエ遺伝学的スクリーニング系を用いた大規模なスクリーニングを実施し、上記①~③に関わる遺伝子群を網羅的に探索・同定する。得られた遺伝子群について、種々の遺伝学的解析によりその役割と動作機序を明らかにしていく。一方、scrib変異細胞クローンをショウジョウバエ成虫原基に誘導して細胞競合を起こした後、変異細胞および正常細胞を回収してRNAseq解析を行う。これら遺伝学的スクリーニングおよびトランスクリプトーム解析により得られるデータを相互にフィードバックしながら遺伝学的解析を進め、上記①~③を明らかにすることで、がん抑制型細胞競合の制御機構の解明を目指す。
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Research Products
(8 results)