2021 Fiscal Year Annual Research Report
Detection of organ-specific mitochondrial dysfunctions
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20H00530
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
康 東天 九州大学, 医学研究院, 教授 (80214716)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内海 健 九州大学, 医学研究院, 教授 (80253798)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / TFAM / p32/C1QBP / 心不全 / リソソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
主たる実績は大きく3つに分類される。 (1)ミトコンドリアDNA(mtDNA)の複製機構:mtDNAの転写開始複合体の構成B因子である転写因子TFB2MとRNAポリメラーゼであるPOLRMT遺伝子をノックアウトしたヒト細胞では、mtDNAが消失した。このことはmtDNAの2種類の複製機構のいずれにおいても両因子が必須であること明らかにした。 (2)ミトコンドリアプロテアーゼLonによるミトコンドリアマトリックスタンパク質の品質管理:Lonのノックダウンしたヒト細胞では多くのしかし特定のミトコンドリアマトリックスタンパク質が特異的に凝集を起こした。この凝集はLonのプロテアーゼ活性の低下によるものではなく、Lonが持つATP依存性のシャペロン活性の低下によることを明らかにした。 さらに、このシャペロン活性は細胞で合成されミトコンドリアマトリックスにインポートされ際の構造の維持に働くことにより、ミトコンドリアマトリックスタンパク質に対するgatekeeperとして働いていることを明らかにした。 (3)ミトコンドリアによるリソソーム機能の制御とオートファジ―の制御:ミトコンドリア内での翻訳反応に非常に重要なp32/C1QBPを心筋細胞特異的にノックアウトしたマウスを作製したところゆっくりと心不全が進行し約1年で死亡した。つまり慢性心不全マウスの非常によい動物モデルとして有用であることが分かった。さらに、心不全のゆっくりとした進行はミトコンドリアによるATP合成低下が直接の原因でなく、ミトコンドリア機能低下に基づくNAD+の合成低下によって、リソソームの機能低下でオートファジーによる細胞内の品質管理の低下が原因であることを明らかにした。このことはミトコンドリアによるリソソーム機能の制御を示し、その分子機構を初めて明らかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)前年度までに構築したトランスオミクス的ミトコンドリア機能評価:高感度に1000分子の検出が可能なメタボロミクスの測定系は、2021年度の本研究費に基づく研究成果の多くで、活用されている。そして、ミトコンドリ細胞全体ではなく、ミトコンドリア内代謝を特異的に測定するための高速、効率的に無傷のミトコンドリアを生成する方法を開発し、細胞全体の代謝とミトコンドリア内特異的代謝を区別して測定する系を完成し、その有用性を NAD+の細胞内動態に注目することで示す論文として発表出来た。(2)ミトコンドリア関連疾患の予防とその治療に向けた戦略的開発: (i) ミトコンドリア局在タンパク質p32の遺伝子KOマウスと免疫疾患に関しては、自己免疫性疾患である乾癬のImiquimod耳介塗布マウス実験モデルを用いて、p32KOが免疫樹状細胞の抑制を介して、乾癬の発症を強く抑制することを明らかにした(論文済)。 (ii)心筋特異的p32KOマウスの拡張性心筋症の発症は、オートファジー異常による心筋ミトコンドリア品質低下に起因していた。オー トファジーの異常はオートファゴゾーム形成ではなく、むしろリソソームの機能低下によるオートリソソーム内の分解機能異常であることを明らかにした。p32分子の欠損はミトコンドリア依存性のNAD+の合成低下によるリソソーム膜状に限局したATP合成不全を引き起こし、NAD+前駆体のNMN投与はリソソーム機能を回復させた。これらの結果は心不全の進展における新しい機序と新しい治療戦略の可能性を示唆するものである(論文済)。NAD+前駆体のNMN投与が個体レベルでの心不全進行抑制することも確認した(論文作成中)。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)代謝と疾患 プレ褐色脂肪細胞はエクソソームを介してオートクライン/パラクライン的に褐色脂肪細胞への分化を促進することを発見した。TFAM過剰発現プレ褐色脂肪細胞を分離培養すると、分化因子の添加なしに高効率に褐色脂肪細胞に分化し、この分化促進効果はTFAMがプレ褐色脂肪細胞からの褐色脂肪細胞分化促進エクソソームの分泌を促進している事を明らかにした。この褐色脂肪細胞分化促進が肥満抑制と耐糖能改善の機構であることが示唆された。(論文リバイス中)。TFAMによるエクソソーム分泌促進の分子機構、およびそのエクソソーム内の分化促進分子同定の予定である。また、脂肪細胞特異的TFAM過剰発現マウスを作製し、上記のTFAMの効果を確認する予定である。さらに下記の実験の遂行を予定している。 (i)TFAM過 発現マウスと老化:全身性TFAM過剰発現マウスの健康寿命伸長や認知機能維持に関与する因子の探索のためにすでに手元にある若年と高齢のTFAM発現マウスを用いて血液や組織の網羅的メタボローム解析を行う。(ii)TFAM発現マウスとアルツハイマー病神経、骨格筋などの組織特異的TFAM発現マウスの作製し、認知機能向上がどの組織のTFAM発現が関与しているかを明らかにする。 (2)非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とp32:血球特異的p32KOマウスにおける脂肪肝抑制機構の解明に向けて、対照マウスとして肝細胞特異的p32KOマウスを作製し、トランスクリプトーム、メタボローム、プロテオーム解析を行う。 (3)マイクロベジクルを用いた 臓器特異的ミトコンドリア機能評価診断システム構築:実臨床検査に 用可能なマイクロベジクル調整法の開発に並行して、現行分離法によるマイクロベジクルを用いて、 様々な組織特異的抗原に対する抗体を用いたフローサイトメトリー解析により多くの臓器の由来細胞同定系を構築する。
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