2020 Fiscal Year Annual Research Report
機能性高分子材料設計のためのミクロ~メソ・マルチスケール量子シミュレータの開発
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20H00588
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
青木 百合子 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (10211690)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量子化学 / 電子状態 / マルチスケール / Elongation法 / 高分子設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
独自の純国産Elongation(ELG)法を高分子の機能探索に対応するツールとして展開するために、マルチスケール(量子化学~粗視化MD)に展開する前にミクロ物性やミクロな立場からの現象解明ができる手段を整えるために諸手法の導入を行っている。 まず、高分子反応物性解明として高分子中の局所的な励起状態を扱えるよう、ELG法の基盤としている領域局在化分子軌道をベースとした励起エネルギー計算が可能となるようにTamm-Dancoff approximation(TDA)法およびRandom Phase Approximation(RPA)法を導入した。Hartree-Fock(HF)レベルおよびHFレベルを超えた展開と合わせて、密度汎関数(DFT)法で効率よく稼働できるようプログラミングを行い、励起状態計算のためのTime-Dependent TD-DFT法を導入し、吸収スペクトルの対応を行った。開発したTD-HF-ELG法およびTD-DFT-ELG法においては、局在化の程度と励起状態に関与する励起の種類との関連性についても詳しく検討を行い、自動的に励起状態に関与する軌道を抽出して、効率的に局所励起状態が得られるような手法開発を行った。 一方、Hartree-Fock法のレベルで、ab initio量子化学計算のオープンソースライブラリである PySCF法にElongation法を導入したPyELG法のプログラム開発を行い、第一歩として分子性スタック系に適用した。 前者の高分子の局所励起エネルギー計算の開発では、予め領域局在化分子軌道を作った上で励起状態計算を行っていたが、後者のPyELG法を結合することにより、より効率的にかつ巨大系の中の局所的励起状態を高精度に計算できる手法を開発している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本プログラムの構築が終わった暁には、一般的な高分子の酸化や光反応にも応用する必要があり、マルチスケールに展開する前に整えておくべき電子状態理論の立場からの計画があった。そのため、高分子中の局所的な励起状態計算の効率的評価を目指し、領域局在化分子軌道を基底とした励起状態計算法を導入した。HFレベルのみならずDFT法のレベルでも稼働するようにlocal TD-DFT法に展開し、これに対して局所的な色中心の吸収スペクトル(励起エネルギーおよび振動子強度)がほぼ正確に得られるようになった。 また、本開発とは独立に本手法の妥当性を検証するために、予めポリカーボネートを取り上げ、光による結合解離メカニズムの解明も行い、興味深い知見を得ている。 一方、既に開発したGAMESS-ELG法を、PySCF法に組み込むことによりPyELG法のプログラミングを行い、分子性スタッキング高分子に対して、問題なく稼働することを確認した。さらに、次年度マルチスケールに展開するための一歩として、高分子に対してMD シミュレーションのためのお膳立てを行っている。これらは交付時に計画を立てていたもので、順調に進展している。 加えて、ELG法を機能設計のために利用するべく、テストとしてドナーとアクセプターがワイヤーで接合したポリマーに対して、非線形光学特性計算ならびに最終年度で行う予定であるニューラルネットワークを用いた機械学習を行なうと共に、ELG法伸長過程で攻撃分子の電荷を先取りする手法を機械学習と組み合わせて取り入れ、ポリイミド系を対象とした屈折率計算、さらなる応用に向けて表面系の計算も行い、一歩先に進んだ展開が出来たと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本手法(開発したプログラム)を様々な系に対して適用することにより、その精度と効率性等に一般性があるかどうか技術的に検証する必要があり、それらの確認を行いながら並行して、よりマルチスケールに向けた次年度の計画の準備に入る。 分子動力学シミュレーションもELG法と結び付けて開発を行っているが、これに対して溶媒効果を導入した場合の扱いについても検討を進める。 初年度の成果として、たとえばポリエチレンに対して芳香族をもつ置換基がついている一次元的な高分子の場合は、励起エネルギーおよび振動子強度共に、全体をまるごと扱う従来法を用いた結果をよく一致することを確認済みであるが、三次元系用ELG法を利用して、より絡み合った高分子に対しての適用性については今後検証するべき課題である。 またPyELG法については、次の段階として化学結合系用にプログラム開発を行う必要がある。その際に、末端水素原子(あるいは他の末端原子)を除去して新しい結合形成をさせるが、取り除いた原子軌道数に対応する不要な領域局在化分子軌道の一部を除去する必要が出てくる。その場合のアルゴリズムを構築し、化学結合系高分子一般に問題なく利用できるように整える必要がある。そのあと、たとえば、実際に光解離反応メカニズムを検証したポリカーボネートのC-O結合解離に関わる光吸収について、定量的なスペクトルを算出できるかどうかテスト計算を行い、検証を重ねながら一般化に向けた展開を行う。
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Research Products
(8 results)