2021 Fiscal Year Annual Research Report
Regulation of Genome Stability in Medaka
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20H00631
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤堂 剛 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 招へい教授 (90163948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬々 潤 株式会社ヒューマノーム研究所, 本社, 代表取締役社長 (40361539)
吉村 崇 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 教授 (90323336)
Canela Andres 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (90837585)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ゲノム構造変異 / DNA二重鎖切断 / 自然発がん / メダカ |
Outline of Annual Research Achievements |
がんは遺伝子の病気と言われるように、遺伝情報の撹乱は発がんの重要要因である。多数の遺伝子を含む遺伝情報の総体を「ゲノム」と呼ぶが、我々の身体は「ゲノムを正常に維持する」精密な機構を備えており、発がんを抑制している。メダカはモデル実験動物として優れた特性を持っている。私たちは、このメダカの特性を利用し、「ゲノム維持機構の破綻」により高頻度に発がんする「発がんモデル系」を樹立している。この系を用い、「ゲノムの変異」が「発がん」にどのように繋がっているのかを解明する研究を計画している。「ゲノム恒常性」は生命の根本であり、全ての生物は厳密な「ゲノム維持機構」を備えている。しかしながら、ゲノムへの恒常的なストレスは、その監視機構をかいくぐりゲノム不安定性を誘発し、発がんなど多様な疾患をひきおこす。我々は、メダカをモデル生物として、「自然発がん」及び「高頻度ヘテロ接合性消失」といった2つのゲノム不安定性解析系を樹立している。いずれも明確な表現型であり、他のモデル生物では観られないユニークな系である。メダカを用いる利点は、個体・体組織から細胞レベルまでの解析が可能であること、またコンパクトなゲノムを持ちNGSによる解析に適している点である。一方、モデル生物での実験結果のヒト病態への外挿は社会的責務として重要である。本申請では、上記ゲノム不安定性メダカのゲノム解析に、NGSによる「ゲノム変異解析」「DNA損傷部位の直接検出」等新たな手法を適用し、「ゲノム維持機構」の個体・組織からゲノムレベルまでの包括的理解を目指すと共に、ヒト病態の分子レベルでの特性との相関を解析したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々が樹立したメダカ変異体は、特定の成育時期に、大腸がんを、全ての個体で自然発症するといった極めてユニークな表現系を示す。本変異体ではTLS DNAポリメラーゼと呼ばれる特殊なDNA複製酵素が欠損しており、複製フォーク停止に起因するDNA二重鎖切断(DSB)の回避機能が低下している。実際に、本変異体由来培養細胞では正常細胞に比べより多くのDSBが誘発されていることを確認しており、これが高発がんの要因であることを示してきた。発がんは、多様な要因により誘発されるが、それらの本高発がんモデルへの寄与を明らかにする目的で、本年度は1)培養細胞系および2)個体での解析系の2つの方向からの解析を行なった。1)培養細胞系:ミスマッチ修復欠損により点突然変異が多発する。点突然変異の本変異体表現型への影響を細胞レベルで解析する目的で、msh2変異と当該遺伝子変異のホモ個体から培養細胞を樹立した。2)個体での解析系:がん細胞にはヘテロ接合性喪失(LOH)が多発していることが知られている。我々は、DNA損傷部位でLOHを高頻度の誘発するメダカ変異体(rev1-HN)を報告しており、rev1-HN変異の導入が、本変異体の発がん表現型にどの様な影響を観察する目的で、交配による二重変異体の樹立を行なった。二重変異体での発がん解析を継続して行なっている。一方、DSBは複製フォーク停止のみでなく多様な要因により生じるが、生物は危険なゲノム損傷であるDSBに対し多様な応答機構を備えている(損傷応答機構)。がん抑制遺伝子は損傷応答機構の重要なコンポーネントであり、BAP1はがん抑制遺伝子の一つとして近年注目されている。本変異体との二重変異体の作成を目指し、ゲノム編集による変異個体作成を試み、ヘテロ変異個体の樹立に成功した。今後ホモ個体を作成し、本変異体との二重変異体の樹立を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の3点に重点を置き研究を進める。1)本変異体にヘテロ接合性喪失(LOH)高頻度誘発変異を導入した二重変異体を樹立した。充分な数の二重変異体個体が揃いつつあるので、寿命測定を開始するとともに、発がんの観察を行う。二重変異個体の寿命を確認後、死亡間近の発がん個体からがん細胞を回収し、今後の解析用サンプルとする。2)がん抑制遺伝子の欠損は、発がんの重要な要因である。BAP1は、近年報告されたがん抑制遺伝子である。がん抑制遺伝子欠損の本変異体表現型に与える作用を確認する目的で、BAP1遺伝子のヘテロ変異体が作製できたので、BAP1ホモ変異個体を作成し、本変異体との二重変異体の樹立を行う。3)ヒトがんとの相関を明らかにする事は、モデル生物を用いた解析には必須のプロセスである。ヒトがんとの相関を明らかにする目的で、本がん細胞での遺伝子発現変動解析を開始する。
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Research Products
(3 results)