2021 Fiscal Year Annual Research Report
社会の価値を内包した持続可能な発展の重層的ガバナンス
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20H00648
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
馬奈木 俊介 九州大学, 工学研究院, 教授 (70372456)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金子 慎治 広島大学, 人間社会科学研究科(国), 教授 (00346529)
加河 茂美 九州大学, 経済学研究院, 教授 (20353534)
藤井 秀道 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (20731764)
田中 健太 武蔵大学, 経済学部, 教授 (30633474)
松八重 一代 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (50374997)
小谷 浩示 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 教授 (80422583)
谷川 寛樹 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (90304188)
キーリー アレクサンダー・竜太 九州大学, 工学研究院, 助教 (40875423)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 統合モデル / 新国富指標 / 行動科学 / 環境経済学 / システム工学 / 企業評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人々の価値認識の変化を明示的に考慮した統合的な持続可能性評価モデルの構築を行うことを目的としている。そのために、本研究では行動科学アプローチによる内的要因変化と社会的価値形成メカニズムの解明を行い、内的要因変化を明示的に考慮した新国富指標の構築と推計、そして外的要因の影響も考慮した新国富指標の将来シミュレーションモデルの構築を行う。当該年度においては、新国富指標の各要素である人的資本、人工資本、自然資本それぞれが人々の内的要因とどのような関係性を有するかについて知見の拡張をさらに実現させ、新国富指標の構築において社会的価値形成メカニズムを組み込むためのメカニズム解明を進めた。 また、本研究では外的要因(経済情勢、技術水準、災害リスク、社会動向など)の変化が内的要因に与える影響を考慮した統合モデリングの設計及び、将来推計シミュレーションを行う。その中で経済情勢や技術水準などの外的要因については、経済活動の中核となる企業活動が影響する。当該年度においては、これまでに構築した複合企業データベースを用いた具体的な分析を行い、企業のESG活動が内的要因(従業員の心理的幸福感など)に対して持つ影響を明らかにした。 本研究では、最終的に構築されたモデルを用いて、シミュレーション結果に基づく政策導入の社会実験とモデルの検証・再評価を行う。当該年度においては、研究対象地域として、福岡県直方市、福岡県宮若市及び大分県別府市を継続し、加えて福岡県中間市、佐賀県江北町、大分県国東市を想定し、各自治体の新国富評価はじめ、様々なステークホルダーを含め連携体制構築を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況はおおむね順調であり、新国富指標のフレームワークにおける (1) 人的資本、(2) 人工資本、(3) 自然資本それぞれの要素における知見の拡張については、計画段階以上に分析が進められている。(1) 人的資本については、健康資本計算における正確性向上に向けた分析を行った。専門家の意見を取り入れた調査を行い、非終末期疾患が持つ影響を正確に考慮した資本推計を実現した。また、パンデミックなどの外的要因が大気汚染減少を通してもたらす健康資本増加の金銭価値化を行い、外的要因が環境要因を通して健康資本に影響するメカニズムを定量的に示した。(2) 人工資本については、交通インフラが人々のストレス・福利に与える影響を分析し、人工資本と内的要因の関係に関する新たな知見を得た。(3) 自然資本については、土地利用が人々の主観的福利に与える影響を衛星画像データを用いて分析した。結果、草地や水域といった自然資本の影響が示され、自然資本が持つ内的要因への寄与を明らかにした。上記の研究結果によって、新国富指標と内的要因との関係に関する知見を拡張でき、社会的価値形成を考慮した新国富指標の構築を進めた。 また、外的要因の影響については、企業のESG活動が従業員の心理的福利に与える効果を明らかにした。本結果は、企業が社会的活動を促進することで、従業員の心理的幸福感を高め、逆にガバナンス活動はストレス要因となることを示唆した。 さらに自治体において、市の総合計画への新国富指標の採用、施策における評価、人的資本、自然資本、人工資本の各資本における予算と資本の増加評価等を行った。国内の企業との協力体制も進み、主に人的資本の向上による社会貢献に資する実業化への準備も進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、内的要因と新国富指標の各要素との関係性を明らかにすることで、新国富において内的要因がどのようなメカニズムで各資本と相互に関連しあうかを明らかにしてきた。 今後は、内的要因を考慮した新国富指標の構築に向けて、主観的・客観的要素を含めた様々な内的・外的要因がどの程度の影響力を持つかを明らかにする必要がある。サーベイベースの手法を用いて、さまざまな要因が新国富に対して有するウェイトの推定を、近年開発された選択実験ベースの手法を用いて行う。本手法を用いるためのサーベイはすでに実施済みであり、昨年度までに日本全国の個人を対象とした個票データの収集を行っている。 また、外的要因(経済情勢、技術水準、災害リスク、社会動向など)の変化が内的要因に対してもつ相互的影響を明らかにするため、今後は技術の発展と内的要因との関係性の分析を進める。新たに導入される技術の代表として完全自動運転車(fully automated vehicles; FAV)に着目し、新技術と個人の潜在的意識との関係性に関する知見の拡張を進めることで、外的要因を考慮した新国富指標の設計に技術進歩の観点を取り入れる。 最後に、本研究ではモデルの妥当性についてフィールド実験による検証をもとに、提案された施策が該当地域の持続可能性を高めるために効果的か、社会実験をもとに評価、検証を行い、モデルへのフィードバックを行う。そのため、研究対象地域として想定している、福岡県直方市、福岡県宮若市、福岡県中間市、大分県別府市等自治体との連携体制を強固なものとし、継続的な評価を行い、さらに多様なステークホルダーとの連携も強化する。
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Research Products
(11 results)