2020 Fiscal Year Annual Research Report
TOF-SIMSによる微量有機分子の可視化を目指した新しい前処理法の開発
Project/Area Number |
20H00957
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宍戸 理恵 東北大学, 多元物質科学研究所, 技術職員
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Project Period (FY) |
2020-04-01 –
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Keywords | TOF-SIMS / 検出感度向上 / リン脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究の目的】 TOF-SIMSは、微小領域に存在する有機分子を可視化することのできる数少ない分析手法である。しかしながら、分子量の大きい有機物はイオン化率が低いことに加え、イオンビームによるダメージを受けやすい傾向があり、その検出感度が低質量の分子と比較して、2桁以上低い場合が多い。SIMS研究分野では、新しいイオンビームの開発が行われているが、その実現には膨大な時間と費用を有する。そこで本研究では、簡便かつ安価に有機分子の検出感度を向上させるための新しい前処理法の開発を行った。
【研究の成果】 評価分子にはTOF-SIMS分析において、検出感度が低い生体リン脂質(DSPC、DPPC)を用い、これにマトリックスとして界面活性作用を有する胆汁酸(コール酸、リトコール酸)を添加することで、両者の共結晶を形成させ、この結晶構造が目的分子の検出感度を向上させる効果を有することを証明した。具体的には、リン脂質とマトリックスの組み合わせを変えて、それぞれの濃度比が1:1、1:10、1:100となるよう混合した試料を作製し、TOF-SIMSで分析評価した。その結果、1:100の試料ではマトリックス未添加試料と比較して、リン脂質の検出感度が60-100倍程度向上する結果を得ることができた。また2種類のリン脂質を混ぜ合わせた溶液に、異なる濃度比の胆汁酸を添加した試料の評価もあわせて行った。その結果、DPPCはDSPCと比較して、低濃度のマトリックスの添加で感度が向上することを明らかにした。さらにSEMによる試料表面の形態観察を行い、同試料をTOF-SIMSの質量イメージングで評価した結果、共結晶が形成されている領域ではリン脂質のインタクトイオンの感度が向上しているだけではなく、そのフラグメントイオンの発生が抑制されることが明らかとなった。
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