2020 Fiscal Year Annual Research Report
Formation and deconstruction of the "Alpine myth": the politics of cultural representation in the national integration of Switzerland
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20H01248
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
葉柳 和則 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (70332856)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 靖子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (70262483)
増本 浩子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
川島 隆 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10456808)
中川 拓哉 名古屋大学, 人文学研究科, 博士研究員 (10829906)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アルプス / スイス史 / 表象 / 神話 / ヨーロッパ文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、コロナウイルス問題のために、スイスでの現地調査を実施することができなかった。したがって、入手済みの資料、web上のデータベース等で公開されている資料、郵送によって入手しえた資料をもとに研究を実施した。結果として、研究の進展という点では一定の制限を受けたが、入手した資料に基づく個別の研究、および研究プロジェクトの基本的枠組みを構築するという観点から見れば、十分な実績を上げることができた。 本研究プロジェクトの目的は、ヨーロッパ全体ににとってのトポス(=意味を帯びた空間)としてのアルプスに関する表象の産出と、その再領土化の試み(特にナチス時代のドイツにおける山岳イメージとその映画化)との絶えざる葛藤の過程を、主としてスイスに定位して、文学作品、映画、絵画といった文化的諸現象から辿ることである。プロジェクトのメンバーは、それぞれが担当するテーマに関する研究を推進するとともに、Zoom等を利用して随時、研究情報の交換や進捗状況の報告を行った。2021年3月と2021年12月に、全メンバーが参加する研究会をオンラインで開催し、研究成果を共有するともに、今後の展開のためのディスカッションを行った。 そこでの報告を相互に関連付けることで、ボドマー、ブライティンガー、ゲーテらによる18世紀の汎ヨーロッパ的性格を帯びたアルプス表象の生成から、ナチス時代のドイツ山岳映画における「危険とその〈男らしい〉克服」というドイツ的意味づけを経て、1930年代後半のスイスの演劇や文化運動における「多言語・多文化の空間としてのアルプス」という対抗的表象の生成という、アルプス表象の大きな歴史的流れを確認することができた。これは「表象の政治」という視点からアルプス表象を一貫して理解するための枠組みが形成され、メンバー間で共有されたことを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『研究実績の概要』で触れたように、コロナウイルス問題のために、当初予定していたスイスのアーカイブ、図書館、政府機関での資料収集を実施することはできなかった。スイスにおける学術資料や行政文書のデジタル化は、ここ10年で大幅に進展したが、紙媒体かつ複写不可の資料・文書を現地で閲覧するという方法でのみアクセス可能な場合も少なくない。デジタル化され、インターネット上に公開されている場合でも、部外者が利用登録するには現地に足を運び、パスポートや身分証明書を提示した上で、手続きする必要がある場合もある。以上が、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と判断した理由である。 しかし、これも『研究実績の概要』で触れたように、入手済みの資料や、インターネット上のデータベースや郵送によって入手しえた資料・書籍を用いることで、18世紀の初頭から20世紀の後半までのヨーロッパにおけるアルプスイメージを、「表象の政治」という観点から一貫した形で捉えるための枠組みを形成することはできた。研究代表者や研究分担者は、この枠組みの形成を念頭に置きながら、当該期間中、個別の研究成果を学会発表や論文・書籍の形で公刊した。 以上の状況に鑑みれば、スイスでの現地調査が不可能だったことにより、資料収集の点で当初の予定からの遅れが見られるが、その他の点では計画を遂行することができたため、進捗状況が「やや遅れている」というカテゴリーに入ると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で、コロナウイルス問題への対応として措置されていた、スイスへの入国制限は大幅に緩和されている。ワクチンを3回接種したことの証明書を提示すれば、研究目的でスイスに入国することは可能となった。そのため、研究代表者・分担者が勤務する大学において、スイスへの出張が認められれば、現地調査の実施に移ることができる。念のため、スイス国立図書館、チューリヒ州中央図書館、スイス文学アーカイブ、チューリヒ市アーカイブ、ツーク州アーカイブに連絡を取り、資料調査の可否を確認したが、スイス入国が認められれば、現地でアーカイブ担当者と対面で相談しつつ、資料調査を行うことは可能であるとの返答を得ている。したがって、2022年度の夏以降は、研究代表者・分担者が、大学から海外出張の許可を得次第、現地調査に取りかかることを予定している。 研究を円滑に進めるための情報交換や研究成果を共有するための研究会は、当該期間中は研究プロジェクト内のメンバーに限定した、クローズドな形で実施してきた。しかし、『研究実績の概要』や『現在までの進捗状況』で触れたように、アルプス表象を一貫した視点から検討するための基本枠組みは形成しえたため、今後の情報交換や研究会に際しては、メンバー外の研究者や院生にも声をかけ、より開かれた形でのプロジェクト運営を心がける。2022年度は個別の学会発表と論文執筆に力点を置き、その前後に情報交換会や研究会を開催するという形でプロジェクトを推進し、2023年度に全国学会レベルの学術集会において、シンポジウムを開催する予定である。
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Research Products
(9 results)