2020 Fiscal Year Annual Research Report
自然災害における「トラウマの集合モデル」の構築:被災地間・日米墨の比較を通して
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20H01568
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大門 大朗 京都大学, 防災研究所, 特別研究員(CPD) (20852164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高原 耕平 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構, 人と防災未来センター, 研究員 (10844566)
宮前 良平 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (20849830)
中野 元太 京都大学, 防災研究所, 助教 (90849192)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 集合的トラウマ / 南海トラフ巨大地震・津波 / 東日本大震災 / メキシコ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、大災害が地域社会にもたらす人びとの集合的なトラウマとそれによって排除・強化される語りに着目した3段階のフィールド研究を推進し、その理論的検討から、トラウマの集合モデルを提示することを目的とするものである。初年度は、災害前・後、日本と海外の津波被災地の比較から、排除・強化される語りやその形式を明らかにする【研究1】、トラウマの集合モデルとその実践手法を明らかにし、提示する【研究4】を中心として実施した。 【研究1】量的調査: 2011年の東日本大震災の前後における岩手県野田村に関する岩手日報紙の記事をデータ化し、平時の語りと、震災時の語りの違いについて考察した。さらに、全国紙を用いて、東日本大震災の被災地(岩手県野田村、大槌町)と南海トラフ巨大地震の未災地(高知県黒潮町、室戸市)の記事の語りの形式の違いについて、テキストマイニングによって解析した。 質的調査:集合的トラウマについて理論化された『そこにすべてがあった』を共訳し、その舞台であるウエスト・ヴァージニア州バッファロー・クリークでの調査を行った。また、日本の炭鉱災害(三井三池炭鉱)の資料収集・語り部の方のヒアリングを行い、日本の炭鉱コミュニティとの違いを検討した。また、岩手県野田村での10ヶ月間の滞在研究を行い、地域での読書会やカフェの実践の中で、日常の語りの中に見られる東日本大震災時の経験について参与観察を行い調査した。 【研究4】研究会を合計6回実施し、集合的トラウマに関する文献(ハーマン、E.エリクソン、フロイト等)、戦災・自然災害における記憶・慰霊に関する文献を講読した。さらに、個別的トラウマと集合的トラウマの関係、および集合的トラウマと集合的記憶の関係について理論的整理を試みた。また、集合的外傷をコミュニティや対人関係の観点からだけでなく、「自然と人間」という観点から再解釈することの可能性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究1】災害前・未災地(黒潮町):2012年3月の内閣府による南海トラフ地震・津波の新想定発表前後の防災活動や実践の言説の変化を明らかにするための文献および新聞紙調査を実施した。具体的には、高知県黒潮町を対象として、避難訓練や避難道整備、高台移転といた様々な津波防災対策の背景や実施時期を整理する基礎調査と、全国紙において、防災対策がどのような言説とともに報じられたのかをテキストマイニングを用いて調査した。その結果、新想定発表によって、地震・津波が発生していないにも関わらず、あたかも地震・津波後のように人口が流出する「震災前過疎」や東日本大震災の被災地とも類似的な大規模な造成と高台移転が進んだことが明らかとなった。 災害後・被災地(野田村):防災に関連する言説の変化について、ローカル紙と全国紙を用いたテキストマイニングを行い調査した。その結果、東日本大震災で被災した岩手県野田村の記事の変化には、3つの特徴があり、防災の語りが増加すること(活性化)、震災以前の語りとの間に断絶が認められること(脱文脈化)、高台移転などを含む多様なイシューが増加すること(多様化)が明らかになった。また、震災や防災の記事量は時間の経過を経て減少しており、実践研究における住民の日常の語りからも震災の語りは表面化していないことが明らかになった。しかし、それは、他者の深刻な被災経験に踏みこまないための配慮によって表面化していないだけであり、震災の記憶の風化とは質的に異なることを記述した。 【研究4】被災者の語りに登場する「偶然」に着目し、偶然性の問題を検討することが「自然」の概念の再解釈に寄与すると仮定し、個別的・集合的トラウマもそうした自然と偶然の関係性の現れの一つでありうると捉えた。以上の方向性のもと、自然の一般的な観念を「二面性」「対象」「時間」「発見」「成る」という要素から批判的に検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目へ向けて、実践をより思考する研究2(防災実践へ影響する集合的トラウマの分析)と理論研究である研究4を実施する。 研究2では、研究1のフィールド調査を継続し、防災実践に集合的トラウマがどのように作用したかについて実践的に明らかにする。具体的には、国内の津波被災(想定)地域である岩手県野田村では復興支援活動(津波写真返却お茶会等)に、高知県黒潮町では防災推進活動(福祉避難所開設訓練等)に、国外ではメキシコ・シワタネホにおいて防災活動に参加し、参与観察を行う。加えて、集合的トラウマの概念が提出された米国・ローガンにある災害記念図書館の資料を元に文献調査する。防災や復興の過程において中心的になされた実践と、研究1で明らかにした集合的トラウマとそれに伴う排除・強化された語りとの関連を明らかにする。さらに、国内・国外との事例から回避された実践とプロセスをグループ・ダイナミックス(集団力学)の立場から分析する。 研究4では、集合的トラウマの理論的検討として2つの研究を推進する。第一に、偶然性や自然の概念を軸に人的災害との差異に着目し行う。その際、集合的トラウマが提出された背景を精神分析・災害研究の文脈を参照し分析する。第二に、米国・デラウェア大学がもつ災害専門図書館を用い、集合的トラウマと文化的トラウマの概念との異同を社会構築主義の観点から整理する。社会学において現在用いられ、ハリケーン・カトリーナにおいて使用される概念(国民的、文化的トラウマ等)との対比から検討する。 さらに、新型コロナウイルスによって渡航が困難となっていたメキシコ・シワタネホ市への実践調査を再開し、研究1の内容を行う。また、高知県黒潮町、岩手県野田村においても、現地住民との実践活動の再開を念頭に置きながらも、新型コロナウイルスの感染状況に応じて、研究1で行った量的調査や理論研究を重点的に行うことも検討する。
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Research Products
(3 results)