2022 Fiscal Year Annual Research Report
算数・数学における「深い学び」を促進する授業実践・評価の統合的システムの開発
Project/Area Number |
20H01720
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
光永 悠彦 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 准教授 (70742295)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
孫 媛 国立情報学研究所, 情報社会相関研究系, 准教授 (00249939)
鈴木 雅之 横浜国立大学, 教育学部, 准教授 (00708703)
山口 一大 筑波大学, 人間系, 助教 (50826675)
植阪 友理 東京大学, 高大接続研究開発センター, 准教授 (60610219)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 学力調査 / 深い学び / 算数教育 / 指導改善 |
Outline of Annual Research Achievements |
算数・数学における初等教育において、認知診断モデルを用いて「深い学び」を検討する検討課題においては、あるカリキュラムにおいて多数の問題項目を提示する場面を取り上げる。カリキュラム上で、学習を進めていくうえでカギとなる学習上の習得段階を「アトリビュート」として考え、出題した問題ごとに、正答に至る上でアトリビュートの習得が必要かを表す「Qマトリックス」を問題作成者が考えておく。問題ごとの正誤データ分析することで、児童ごとのアトリビュートの習得確率が推定でき、あわせて問題ごとの特性(困難度など)を推定できる。 今年度は教科書会社が保有する項目を小学2年から6年生の児童に提示し、正誤データを観測した場合のデータ分析を行い、児童ごとにアトリビュートごとの習得確率を児童ごとに報告した。また、同じ正誤データを項目反応理論(IRT)により垂直尺度化して、学年ごとに同一の尺度上で「算数の能力」を表し、この値を「全体的な学力の習得状況」としてフィードバックした。あわせて、これらの情報を教員にもフィードバックすることで、今後の学習を行う上で指導改善に役立つ可能性が示唆された。同一の正誤データを用いて、算数の能力をアトリビュートごとに細分化し、フィードバックすることができるようになれば、算数を指導する場面において、児童ごとに「習得できていない可能性が高いアトリビュート」を特定することができ、教員からみて指導のために有益な情報がもたらされる可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題に着手した当初においては、新型コロナウイルス感染症の拡大が予期されていなかったため、小学校において、すべての問題項目を紙で提示し、紙に書かれた解答を採点する方式が想定されていた。しかし、感染の波が繰り返し観測されてきたことや、調査を依頼する教員が感染症対策等に追われ、2021年度は新規に調査を行うことができなくなった。一方で、感染がある程度収束した2022年度(今年度)は、5校を対象に調査を実施することができた。ただし、紙を配布したり解答用紙を回収したりする作業をすべての協力教員に依頼することができなかったため、汎用のWEBフォームを用いた解答入力フォームを用意し、オンラインによるデータ収集を併用することとなった。しかし、このWEBフォームは小学生が解答を入力できるように最適化された設計ではなかったため、不具合が多発することとなり、教員の負担軽減に直接つながらないという課題を残した。 調査を実施し、解答データを収集するという手続きについては、小学生に対してもうまくいく手法を手探りで検討する必要があった。本研究課題では調査実施にあたり、学力調査のデータをいかにして的確に収集するかを含めて検討することとなったため、当初の予定にはなかった課題に対応する必要が生じた。そのため、研究の進捗がやや遅れているものの、当初の予定で研究の最後に行う予定であった「学校現場へのフィードバック手法や授業改善との関連の検討」を前倒しで行うこととしたため、全体の研究の遅れは、大きくないものと判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年4月現在、小学校においては新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に見られなくなってきており、授業中に調査を実施することに協力してくれる学校も出てくるようになった。しかし、授業時間内に紙ベースで調査を実施することに対して、慎重姿勢を見せる学校もあるため、引き続き「小学生低学年が扱うことのできる、タブレット端末ベースでの解答収集の仕組み」については、検討を続ける必要があると考えている(副次的な研究ではあるが、GIGAスクール構想の進展にも必要ではないかと考える)。 また、認知診断モデルを用いたアトリビュートごとの習得確率のフィードバックについては、これまで教科書会社が作成・保有している問題に対して、専門家がアトリビュートを振っていたが、今後は研究チームで新たに問題を作成し、アトリビュートの特徴をより的確に問う問題を作成した場合にどのような結果となるかを検討することが必要であると考えている。この点は当初の研究計画において比較的早期(2021年度中)に行う予定であったが、研究計画の変更に伴い後回しになっていた点である。問題とアトリビュート、それにQマトリックスの三者を一体で検討することは、教員にとっては手間がかかるであろうが、問題の内容に即したQマトリックスを考えることにつながるため、実践上、より質の高い結果をもたらす可能性がある。今後はこれらの研究についても進めていきたい。
|