2020 Fiscal Year Annual Research Report
統計的犠牲情報と個人的犠牲情報の複合効果:リスク情報提供の枠組みづくりに向けて
Project/Area Number |
20H01756
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中谷内 一也 同志社大学, 心理学部, 教授 (50212105)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | リスク認知 / リスクコミュニケーション / 災害 / 事故 |
Outline of Annual Research Achievements |
災害や事故など様々なリスクの深刻さを伝える表現方法は、大きく統計的犠牲情報と個人的犠牲情報の2つに分けられる。これら2種の情報のうち、受け手の判断や意思決定により強く影響するのは個人的犠牲情報であるといわれる。しかし、この問題を扱う従来の研究は、「統計vs事例」という構図が念頭にあり、「統計+事例」情報の影響過程を丹念に探る研究は多くない。素朴に考えれば、個人的犠牲情報によってある個人がひどい目にあっていることを知り、さらにそのような悲劇が高頻度で起こっていることを統計的犠牲情報によって伝えられれば、事態が深刻であるという理解が一層強まってもおかしくはない。本研究の目的はこの可能性を多様な設定の中で検討することであった。 今年度は世界中が新型コロナ禍に見舞われた。そこで、本研究課題においても他の材料とともに新型コロナのリスクを取り上げ、上述の問題に対して実証的な検討を行った。一連の調査や実験を実施したが、主要な結果から導かれた結論は、(1)Small et al.(2007)の言うような、個人的犠牲情報に統計的犠牲情報を加えることで、統計的犠牲情報単独並みにリスク評価が下がってしまうことはない、(2)しかし、個人的犠牲情報に統計的犠牲情報を加えても、加算的効果はなく、個人的犠牲情報単独と同程度の評価に留まることが多い、というものであった。さらに、統計条件の結果を全体的にみると、伝え方として高い評価を得ることはなく、相対的に、個人的犠牲情報の影響力の強さが確認されたといえる。これらの結果は論文にまとめ、現在投稿中である。 また、この問題について従来の研究をまとめた総説論文がリスク学会誌に掲載されており、さらに、本研究課題の調査で得られたデータを利用して、Journal of Health Psychologyにもリスク対策の有効性認知に関する論文を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定されていた調査や実験を実施することができ、得られた結果をまとめて学会発表や雑誌への投稿を行った。すでに、リスク学会誌やJournal of Health Psychologyに成果が掲載され、投稿中の論文も2編ある。以上のことから、おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず、犠牲情報の影響に関する調整要因の効果を検証する。例えば、情報を誰が伝えるかという信頼要因、時間経過の要因、他にも、犠牲者に注目するのか、それとも、被救命者に注目するのかというフレーミングや楽観バイアスなど、リスク認知研究で取り上げられてきた各種要因のうち、今回の課題に関連があるものをデザインに組み込んでオンライン実験で影響を検討する。これまでの知見を、実験室実験によって説明力や再現性を検証する予定であるが、コロナ感染状況によって対面実験が難しい場合は、オンライン実験でこれらの課題に取り組む。 その後は、これまでのリスク認知、リスクコミュニケーションのモデル、および、自身の調査や実験から得られた知見に基づき、リスク情報提供の統合的モデルを構築する。そして、モデルを検証するために具体的メッセージを制作し、住民調査を通じた効果測定を実施する。さらには、双方向性のある講習会形式で特定のハザードについて情報提供し、参加者のリスク認知や準備行動意図、さらには実際の災害準備行動への影響を検証したい。
|
Research Products
(3 results)