2020 Fiscal Year Annual Research Report
子どもの「教科内容の本質的理解」を促す授業デザインに関する心理学的研究
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20H01760
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤村 宣之 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (20270861)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橘 春菜 名古屋大学, 教育基盤連携本部, 特任准教授 (10727902)
鈴木 豪 群馬大学, 大学院教育学研究科, 准教授 (40802905)
石橋 優美 埼玉学園大学, 人間学部, 講師 (60804797)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 教科学習 / 概念的理解 / 非定型問題 / 思考 / 多様性 / 教育心理学 / 実験的研究 / 実践的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,各児童・生徒の「教科内容の本質的理解」を促す授業デザインについて,①小学生~高校生を対象とした実験的研究(個別実験,協同解決実験,集団調査等)と②小学校・中学校・高校の授業場面を対象とした実践的研究により心理学的に明らかにすることを目的とする。 ①非定型問題の設定が教科内容の本質的理解に及ぼす効果の検討(実験的研究) 生徒の協同探究を通じた本質的理解の深まりを検討する予備的研究として,大学生を対象に数学科図形領域の非定型問題に関するオンライン協同解決実験を進めている。これまでに,協同で複数の課題の共通点を探り包括的原理を話し合うことで,各個人の本質的理解が深まることが示唆されている。また学生・社会人を対象とした質問紙調査により,非定型問題に取り組む際に批判的思考態度が高い者は授業内容を自分でまとめる意欲が高いことなどが示唆された。 ②非定型問題の設定が教科内容の本質的理解に及ぼす効果の検討(実践的研究) 非定型問題の設定とそれに対する個別・協同探究を特徴とする各教科の授業を各校教員と協同で組織し,どのようなタイプの非定型問題が児童・生徒の思考の多様性の拡大や概念的理解の深化(本質的理解)に有効かを検討した。具体的には,1)中学校社会科(地理的分野:アフリカ州),2)中学校数学科(資料の活用:代表値),3)小学校算数科(図形領域:箱の形)において上記の特質を有する授業を組織し,授業時に実施された非定型問題(導入・展開問題)に対する各児童・生徒のワークシートの記述内容を分析した結果,1)地域の発展可能性を自然,産業,人口などから多面的に考える,2)日常的文脈でどのような代表値への着目が妥当かを考える,3)複数の立体の共通点と差異点を考えるといった非定型問題によって多様な思考が引き出され,それらを関連づけることで各児童・生徒の概念的理解が深まる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度当初に予定していた研究計画について,①に関しては,新型コロナウイルス感染症流行が終息せず,学校現場のICT環境整備においても通常校務が優先されたため,対面・オンラインで新たな実験的研究を実施することは困難であった。一方,既に実施した個別実験研究の分析を行い,多様な解法が存在し,共通点の理由を問うような問題設定が,高校生の数学的な事象(図形の操作とそれに伴う変化)の理解を深めることにつながる可能性があることが明らかとなった(鈴木・藤村, 2022) 点では進展がみられた。また,小学校5年生を対象として既に実施した個別実験研究について分析を行っている。この実験では,社会科における産業立地に関して,児童を生産者視点に立たせたうえで産業立地の規定要因を考えさせる非定型問題を設定した。生産者の視点から考えることで,農産物の流通過程なども考慮した探究が進み,輸送コストなどの社会的条件にも着目でき,産業立地に関する本質的理解が深まることが示唆されており,2022年度に研究成果を学会発表予定である。②に関しては,研究協力校で録画された授業や授業時に児童・生徒が思考を記述したワークシートの分析を行うことにより検討が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究の進展を生かして,新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況も考慮しながら,①授業場面を離れた実験的研究に関しては,小学生または中学生を対象とし,質問紙を利用した実験的な集団調査を実施する(例えば,多様な代表値を用いてデータを評価する問題と,それに付随する追究型の発問を複数設定し,それらが印刷された質問紙を作成・配布することで,発問の違いが回答に及ぼす影響を検討する) 。また,高校生を対象としたオンライン協同解決実験(数学科図形領域の非定型問題における包括的原理の説明の効果),小学生及び中学生を対象とした集団調査・個別実験(物語文読解過程の検討)を実施し,協同探究を通じた個々の児童・生徒の本質的理解の深まりについて検討する。また,②小学校・中学校・高校の授業場面を対象とした実践的研究に関しては,オンラインでの授業観察などの方法も検討しながら,授業場面での協同探究を通じた各児童・生徒の本質的理解の深まりについて検討する。
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