2021 Fiscal Year Annual Research Report
量子多体系の多極子に対するmondern theoryの構築
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20H01825
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 悠樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20785323)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高次トポロジカル絶縁体 / 角電荷 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、これまで知られていた結晶の表面電荷をバルクの分極を用いて預言するベリー位相公式や、物質の軌道磁化を与えるモダン理論公式を、電子間相互作用を有する系や高次の電気・磁気多極子へと一般化することを目指して研究してきた。物質の高次の電気・磁気多極子は、物質の電気・磁気応答に反映されると考えられる。特に空間的に非一様な電場・磁場に対する応答や、電場磁場に対する高次の応答に関連するのではないかと期待し研究を行ってきた。 まず、近年盛んに研究されてきた高次トポロジカル秩序相との関連で、結晶のヒンジやコーナーに現れる電荷をバルクの多極子を用いて予言する公式を定式化した。これは分極の場合とは異なり、高い空間対称性が必要であることがわかった。この結果に基づいて分数コーナー電荷をもつ現実の物質の例を考察したところ、もっとも単純な結晶の一つである塩(NaCl)が角に素電荷の1/8という非自明なコーナー電荷をもつ絶縁体の例であることがわかった。 続いて軌道磁化に関しても高次に一般化することを考えたが、素電荷の整数倍に量子化される電荷とは異なり、軌道磁化は対称性のもとでも量子化されていないため、高次軌道磁化絶縁体のようなものを考えてもトポロジカル不変性を持たせることができないことがわかった。この結果を踏まえて単純な一般化の方向は諦め、後述するように物質の電気磁気応答に関してより基礎的な研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、分極は対称性のもとで多極子へと拡張することが可能だが、軌道磁化に関しては量子化されないために単純な一般化は難しいことがわかった。そこで、軌道磁化の起源である平衡ループ電流の性質をより詳細かつ一般的に研究するために、系の基底状態で流れうる平衡電流や、高次の電気応答についての研究を行った。 これらの研究の結果として、高次の電気応答を定式化することに成功し、高次応答に関する関するドルーデ重みや周波数和則といった一般的な関係式が得られた。また、一般化されたドルーデ重みが発散することがわかり、それが体積無限大極限と周波数0極限の順番に起因することを突き止めた。さらに、これらの解析を超伝導へと一般化したところ、超伝導の電気磁気応答の通常の取り扱いにはゲージ場のカップリングの不定性に起因するambiguityが存在することを明らかにした。これらの研究はさらに発展の余地があり、引き続き研究を継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、物質の多極子に関する性質は何らかの意味で高次の電気磁気応答に反映されると期待されるため、引き続き超伝導体の電流応答などに関する研究を継続する。 これとは別に、近年議論されてきたdipole対称性や一般化対称性との関連で空間的に非一様な対称性をもつトポロジカル秩序相や、その対称性が自発的に破れた相の研究を行ったところ、基底状態の縮退度は周期境界条件のもとで系の大きさに大きく依存することがわかった。トポロジカル秩序相や対称性が自発的に破れた相では通常、基底状態は必ず縮退すると考えられているが、系の大きさによっては基底状態の縮退度が1であり、励起ギャップも有限の大きさに開くような例を作ることが可能であることを突き止めた。この研究も物質のトポロジカルな性質の分流に関して極めて本質的で重要な知見であると考えられるため、引き続き研究を行いたい。特に近年着目されているフラクトントポロジカル相でも同様の現象が起こるかを調べる。
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Research Products
(8 results)