2020 Fiscal Year Annual Research Report
Nonequilibrium quantum thermodynamics of information processing in small scale quantum device circuits
Project/Area Number |
20H01827
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
内海 裕洋 三重大学, 工学研究科, 准教授 (10415094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
都倉 康弘 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20393788)
高橋 和孝 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (70415214)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | メゾスコピック量子輸送 / メゾスコピック系 / 非平衡統計力学・揺らぎの定理 / 完全計数統計 / 情報量揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
① 古典計算過程の計算速度分布理論の構築(内海):ブラウニアン計算機について(①-1)初到達時間プロトコルでの計算時間分布の理論を構築した。(1)Petri Net表示の回路に対応したDoi-Pelitiハミルトニアンを導き、1000状態を超える古典多体系のマスター方程式の遷移行列を生成した。 (2)完全計数統計を半解析的に解き、計算時間分布が逆ガウス分布で近似できることを示した。(3)ブラウニアン半加算器(3)および (4)全加算器の信号・雑音比を、Gillespieアルゴリズムを用いた数値シミュレーションにより求め、熱力学的不確定関係式によりそれがアクティビティにより制約をうけることを見出した。成果は学会で報告した(ブラウニアン加算器の計算時間分布・日本物理学会第76回年次大会(2021年))。 ② 量子的環境におけるエントロピー生成と量子ダイナミクスの理論的解析(都倉):量子操作(CPTP写像)におけるエントロピー生成の基礎理論について研究した。最近提案された量子揺らぎの定理に着目し、小規模量子系と構造を持つ環境からなる系の量子ダイナミクスの特徴抽出を行った。具体的にはflip-flop 結合系や環境の初期条件を様々に変えた Jaynes-Cummings モデルについて古典と量子の違いを明らかにした。また、量子系においては、量子測定とそれに基づくフィードバックが計算の速度・効率・誤り率に大きな影響を与えるが、それに伴う発熱、仕事を考慮した解析手法について調査を進め、その影響を考察した。 ③ 古典・量子系の非断熱ダイナミクス理論の構築(高橋):マスター方程式における完全計数統計の基礎理論について研究した。これまでの研究において得られている結果を一般化・拡張し、基本的な性質を調べた。非断熱効果や履歴効果を系統的に取り入れてさまざまな統計量を計算する枠組みを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初の計画通り3グループで、それぞれの短期的な目標達成を目指して研究を実施した。 ① 古典計算過程の計算速度分布理論の構築(内海):当初計画に従い、(3)Gillespieアルゴリズムによる半加算器と(4)全加算器の解析を行い熱力学的不確定関係式が性能指数に制約を与えることを示した。当初予期していなかったが、観測によりゲートで発熱を起こさずに計算を遂行する可能性を見出した。成果をまとめつつあり、「概ね順調に進んでいる」と評価した。 ② 量子的環境におけるエントロピー生成と量子ダイナミクスの理論的解析(都倉):Jaynes-Cummings モデルを拡張した開放量子系のダイナミクスについて超吸収という新しいモードに着目し、その性質を定量的に議論した。また非エルミート系の断熱/非断熱ポンプ系の解析を進め、非エルミート性によりポンプ流が増大することを微視的解析で明らかにした。これらについては成果をまとめつつあり、「概ね順調に進んでいる」と評価した。 ③ 古典・量子系の非断熱ダイナミクス理論の構築(高橋):当年は研究初年度のため、成果を出すことよりはさまざまな問題に着手することを意識して研究を行った。そのため、論文等発表件数は少ない。古典熱機関のプロトコル最適化についての解析や、完全計数統計について新しい理論的手法の定式化を行った。また、量子熱機関の効率などの評価を行って研究論文にまとめている。そのため、おおむね順調に進展していると評価した。 本年度は次の日程で、各グループ主催のオンライン・ミーティングを行った。内海(05/04、07/01、07/15、11/19、12/11、3/3 )都倉(05/21、08/05、1/14、3/8、3/24)高橋(06/15、08/19、12/25、2/8、2/24)。以上まとめて、全体で「概ね順調に進んでいる」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も、当初の計画通り研究代表者、分担者の3グループで、それぞれの短期的な目標達成を目指し、概ね本年度の実施計画に従って研究を推進する予定である。 ① 古典計算過程の計算速度分布理論の構築(内海):前年度に続きトークン・ベースのブラウニアン計算機を対象に研究を進める。具体的には、前年度に構築した、(①-1)初到達時間プロトコルでの計算時間分布の理論、およびGillespieアルゴリズムを用いた数値シミュレーションの結果をまとめる。前年度の研究の過程で、熱力学的不確定関係式を用いることで、ブラウニアン計算機の性能指数である、信号・雑音比がアクティビティにより制約をうけることを見出した。その関係を、観測のもとでのエントロピー量にも拡張し、数値計算の結果を見直して、不等式を確認する。またゲートで発熱を起こさずに計算を遂行するプロトコルも検討する。また並行して、(①-2)古典アニーリング・プロトコルの基礎理論構築に、「③古典・量子系の非断熱ダイナミクス理論の構築」と協調しつつ進める。 ② 量子的環境におけるエントロピー生成と量子ダイナミクスの理論的解析(都倉):昨年度進めた多数の二準位系とキャビティのJaynes-Cummings モデルの量子熱機関の研究をまとめるとともに、サイクルの途中に量子操作を加えることにより、パワー向上を促す可能性を検討する。昨年度着手した non-Markov な量子開放系での断熱操作および操作速度限界について検討を進める。 ③ 古典・量子系の非断熱ダイナミクス理論の構築(高橋):昨年度行った非断熱効果についての研究をまとめるとともに、熱機関への具体的な応用を展開する。特に、古典系と量子系の本質的な違いや、相互が影響を及ぼしあう様子を調べる。具体的な熱機関としての特性を調べるとともに、プロトコルの最適化について考察する。
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Research Products
(12 results)