2021 Fiscal Year Annual Research Report
Nonequilibrium quantum thermodynamics of information processing in small scale quantum device circuits
Project/Area Number |
20H01827
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
内海 裕洋 三重大学, 工学研究科, 准教授 (10415094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
都倉 康弘 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20393788)
高橋 和孝 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (70415214)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | メゾスコピック量子輸送 / メゾスコピック系 / 非平衡統計力学・熱力学的不確定性関係 / 完全計数統計 / 計算科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
① 古典計算過程の計算速度分布理論の構築(内海):本年度は、まず昨年度の追計算行った。具体的には発熱のない条件で、トークン・ベースのブラウニアン加算器の信号・雑音比について、数値シミュレーションを行い、熱力学的不確定関係式(混合上界)を評価した。その結果、全エントロピー生成の寄与は小さく、上界はトークンの観測回数およびリセット回数でよく表せることを示し(内海・日本物理学会第77回年次大会(2022年))、成果を論文にまとめている。また、古典マスター方程式で記述される断熱駆動系の速度限界について、漸近展開の理論を構築して、論文にまとめた(中嶋・内海)。 ② 量子的環境におけるエントロピー生成と量子ダイナミクスの理論的解析(都倉):多数の二準位系とキャビティの間の超放射・超吸収現象を用いたエネルギー輸送の機構とそれを用いた量子熱機関・量子バッテリーの研究を進めた。昨年度は超吸収を実現するために大きな二準位間相互作用による「折り返し」構造を提案したが、キャビティを制御することにより折り返しがなくとも超吸収過程が可能であることを確かめた。また並行するエッジ状態で実現する拡張Gibbs状態の緩和過程とそれを用いたヒートポンプの特性、およびnon-Markov機構をモデル化し導入した断熱ポンプの解析も進めた。 ③ 古典・量子系の非断熱ダイナミクス理論の構築(高橋):前年度に得られた定式化に基づいて、量子熱機関と古典確率過程の問題について研究を行った。量子熱機関の系について、量子マスター方程式を用いて熱効率、パワーやそのゆらぎの熱力学的特性を解析した。古典確率過程の系では、計数統計に基づく生成関数の構造がLee-Yangゼロを用いて特徴づけられることを示した。また、量子アニーリングの問題について、分岐アルゴリズムを提案し、解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り3グループで、統合を意識しつつ目標達成を目指して研究を実施した。 ① 古典計算過程の計算速度分布理論の構築(内海):昨年度計画を継続し、初到達時間プロトコルについての一連の結果を得た(論文準備中)。また確率熱力学的に基づき、トークン観測とリセットによる熱力学的コストを評価した。また断熱駆動系の理論も論文発表した。これは古典アニーリング・プロトコルに適用可能であると考えられる。 ② 量子的環境におけるエントロピー生成と量子ダイナミクスの理論的解析(都倉):超吸収を用いた量子熱機関の結果を論文発表した。また量子バッテリーの結果を論文にまとめている。またエッジ状態の緩和とヒートポンプについても論文投稿の直前の段階である。①のテーマと関連する計算の確率熱力学の解析、③のテーマと関連するnon-Markov/非断熱過程の解析もオンライン会議などを通じて議論を進めた。 ③ 古典・量子系の非断熱ダイナミクス理論の構築(高橋):量子開放系を系統的に扱う方法を確立し、非断熱描像に基づいて、熱力学的特性などを解析し、論文発表した。また断熱ショートカットに基づく状態制御の論文も投稿中である。動的な古典確率過程に適用可能な、時間離散化生成関数の理論を構築し、論文発表した。また、量子アニーリングにおいて分岐アルゴリズムを提案し、通常およびそれ以上の性能を示すことを明らかにし、成果を論文発表した。また、量子速度限界の新奇な不等式を導き、論文を投稿中である。 定期的に進捗をオンラインでミーティングで報告した。本年度は各グループ主催のオンライン・ミーティング(都倉(04/22、07/07、09/03)、内海(08/04、01/19)、高橋(06/16))および全体の成果報告会(03/22)を行った。以上まとめて、全体で「概ね順調に進んでいる」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究代表者、分担者の3グループで、それぞれの目標達成を目指し、概ね本年度の実施計画に従って研究を推進する予定である。さらに、3グループの成果の統合にも着手する。以下に要点をまとめる。 ① 古典計算過程の計算速度分布理論の構築(内海):本年度は、前年度で得られた成果を完成させる。具体的には、前年度までに得られた、(①-1)初到達時間プロトコルでトークンベース・ブラウニアン計算機の計算時間分布と熱力学的不確定性関係、および計算の熱力学的コストの成果について、投稿論文にまとめる。同時に、本プロトコルに適した熱力学的不確定性関係の整備も目指す。また前年度に(①-2)古典アニーリング・プロトコルの基礎理論構築を構築した。それを②、③と協調しつつブラウニアン計算機モデルに適用することを目指す。 ② 量子的環境におけるエントロピー生成と量子ダイナミクスの理論的解析(都倉):昨年度の研究成果について論文執筆を進めるとともに、微小なデバイス近傍で実現する熱勾配に起因した新規な物理について東大生産研の実験グループと協力して解析を進める。また新しいテーマとして、計算過程の確率熱力学の手法を用いてエントロピー生成の最小でかつ高速な操作を変分法を用いて解析を進める予定である。また、オンライン/対面での①、③の研究グループとの議論の機会を増やし研究を加速する。 ③ 古典・量子系の非断熱ダイナミクス理論の構築(高橋): これまでの研究成果に基づいて、計算過程の非断熱効果の問題を調べる。①で扱われているブラウニアン計算機について、アニーリングプロトコルを用いたときに、計算性能やコストの問題がどのように制御または改善できるかを調べる。また、前年度に示した量子速度限界の新奇な不等式について、古典系や量子開放系への拡張を試みる。
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Research Products
(20 results)