2021 Fiscal Year Annual Research Report
顕微レーザー角度分解光電子分光による複合原子層における非自明なバンド構造の研究
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20H01834
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂野 昌人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (70806629)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 角度分解光電子分光 / 原子層フレーク試料 / ヘテロ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの顕微レーザー角度分解光電子分光を用いた2-5層WTe2の研究によって、バンド分散のスピン分裂の大きさの層数の偶奇依存性があることを明らかにしている。 2021年度は、バルク結晶において極性・非極性転移を伴う構造相転移を有するMoTe2において、1-6層のMoTe2試料を作製してそれらのバンド構造の直接観測を行った。その結果、原子層MoTe2のバンド分散におけるスピン分裂の大きさの層数依存性には、構造相転移の有無ではなく層数の偶奇効果が支配的になることを明らかにした。ここから着想を得て、遷移金属ダイカルコゲナイドWTe2やReSe2において、空間反転対称(非対称)な原子層試料を180度ひねって積層することによって空間反転非対称(対称)な原子層フレークの積層構造を創り出す、という新たな研究が展開された。さらに、ひねり2+2層WTe2を作製して電子状態の観測を行ったところ、2層WTe2とも4層WTe2とも異なる電子状態が形成されていることを明らかにした。現在、電子状態のひねり角度依存性を精査している。 角度分解光電子分光による電子構造の観測に加えて、電子顕微鏡を用いたブラッグ強度の試料傾斜依存性の観測によって、ファンデルワールス積層体の層間距離を実験的に測定する手法を確立した。現在、電子顕微鏡と角度分解光電子分光が併用できる試料の作製方法の開発を進めている。 顕微レーザー角度分解光電子分光装置の開発については、空調によるレーザー本体周辺の温度制御がレーザー光源の揺らぎに大きく影響を与えていることを明らかにした。空調を新調してレーザーの安定化を行うとともに光学系の調整・新調を行うことによって、さらなる小スポット径の実現を目指していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに異種原子層のヘテロ接合体やツイスト積層体における電子構造の観測までも適用可能な試料作製の手法を確立したことによって、さまざまな研究展開が可能となっている。 当初の研究目標としていたWTe2のみならず、バルク結晶において極性・非極性転移を伴うMoTe2の電子構造の層数依存性の研究によって、空間反転対称(非対称)な原子層試料を180度ひねって積層することによって空間反転非対称(対称)な原子層フレークの積層構造を創り出す、という新たな研究展開を見出すことができた。この着想をもとに本年度は、電気伝導測定と角度分解光電子分光測定の両立という研究計画を変更して、WTe2やReSe2において自然界には存在しない180度ひねって/ひねらないで積層した2層試料の作製に取り組み、空間反転対称性の有無が制御されたそれらの電子構造の直接観測を行うことができた。剥離法を用いた原子層フレークを自在に積層することによって新たな電子状態を創り出すことが可能となっており、研究が当初の予定よりも進捗している。モアレポテンシャルを有するひねりWTe2においても新奇な電子構造の形成を観測しており、引き続き研究を進めていく。 また、電子顕微鏡を用いたブラッグ強度の試料傾斜依存性の観測によってファンデルワールス積層体の層間距離を実験的に測定する手法を確立している。これは、結晶構造の同定が困難である微小な原子層フレーク試料において第一原理バンド計算の入力に必要な結晶構造を実験的に決定できることを意味しており、実験と計算の両方を橋渡しすることのできる重要な成果である。 顕微レーザー角度分解光電子分光装置の開発については、より小さいスポット径や自動化された測定環境を構築するべく、光学系の改良やソフトウェアの開発を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
・顕微レーザー角度分解光電子分光装置の開発・改良 複合原子層試料の面積は0.01 mm四方程度であり、より小さいレーザースポット径が必要不可欠である。本年度は、光学系のさらなる改良および測定系の振動抑制に取り組み、測定位置において直径0.005 mm程度を目指す。本年度は、ステージを制御するソフトウェアの開発を進めさらに推し進めて、Si基板やさまざまな金属基板上に剥離した様々な層数の原子層フレーク試料を自動で測定可能なシステムを構築する。 ・モアレポテンシャルが引き起こす新奇量子物性の探索 ツイスト二層グラフェンの超伝導発現に代表されるように、ひねり角を導入して積層した複合原子層試料では、モアレ超格子が作る非自明なポテンシャルによってさまざまな新奇量子物性が発現し得る。本年度は、既に明瞭な角度分解光電子分光像が得られることがわかっている遷移金属ダイカルコゲナイドの原子層フレーク試料(WTe2, MoTe2, WSe2, ReSe2)のひねり積層体およびそれらのヘテロ構造体において電子構造の直接観測を行う。それぞれの研究を推し進めるとともに、論文を執筆する。また、Si基板上ではなく金属基板上に転写を行うことによって、これまで作製が不可能であった単層試料を作製することに取り組む。
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] micro-focused ARPES study on transition metal dichalcogenide flakes2022
Author(s)
Masato Sakano, Yuma Tanaka, Satoru Masubuchi, Shota Okazaki, Takuya Nomoto, Atsushi Oshima, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Ryotaro Arita, Takao Sasagawa, Tomoki Machida, and Kyoko Ishizaka
Organizer
The 9th International Workshop on 2D Materials
Int'l Joint Research
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[Presentation] Electronic structure of Cr1/3NbSe2 epitaxial thin films studied by angle-resolved photoemission spectroscopy2022
Author(s)
B. K. Bruno, S. Hamao, H. Matsuoka, M. Nakano, M. Kitamura, M. Sakano, T. Nomoto, M. Hirayama, K. Horiba, H. Kumigashira, R. Arita, Y. Iwasa, and K. Ishizaka
Organizer
APS March meeting 2022
Int'l Joint Research
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[Presentation] Direct observation of the layer-number-dependent electronic structure in few-layer WTe22021
Author(s)
M. Sakano, Y. Tanaka, S. Masubuchi, S. Okazaki, T. Nomoto, A. Oshima, K. Watanabe, T. Taniguchi, R. Arita, T. Sasagawa, T. Machida, K. Ishizaka
Organizer
The 12th Recent Progress in Graphene and Two-dimensional Materials Research Conference
Int'l Joint Research
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[Presentation] ツイスト二層/二層WTe2における電子状態の観測2021
Author(s)
3.坂野昌人, 田中佑磨, 増渕覚, 岡崎尚太, 野本拓也, 山本崇人, 渡邊賢司, 谷口尚, 有田亮太郎, 笹川崇男, 町田友樹, 石坂香子
Organizer
日本物理学会2021年秋季大会
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