2021 Fiscal Year Annual Research Report
ディラック半金属PdTe2における圧力誘起トポロジカル相転移と超伝導特性
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20H01851
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大村 彩子 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (60425569)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
名嘉 節 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (30344089)
石川 文洋 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (50377181)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超伝導物性 / 高圧物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間2年目は下記の内容について成果が得られた: PdTe2の超伝導転移温度(Tc)の圧力変化がP~1 GPa(~1万気圧)で極大を示すことについて,格子の硬化に帰することを明らかにした。Tcの圧力変化は,しばしばフェルミ面近傍の状態密度の変化と格子の硬さとの関係性に基づいて議論される。前者の増加はTcの上昇をもたらすが,PdTe2 のキャリア密度は~2.5 GPaまで緩やかに増加し,1 GPa 付近のTc 極大に直結する振る舞いはみられなかった。そこで,本研究では後者に着目し,電気抵抗率の温度依存性をブロッホ・グリュナイゼンの式に適用してデバイ温度を見積もった。デバイ温度は低圧域では殆ど変化しないが,1 GPaを超えると大きく上昇する結果が得られた。さらに,初年度に取得した格子定数の圧力変化を見直し,弾性率の詳細な変化を抽出できるひずみ解析を行った。その結果,結晶構造は保持したまま,1 GPa付近で弾性率が変化することが明らかとなった。特に興味深い点として,1 GPaを境にして低圧側の方が弾性率は大きく,変形しにくいことがわかった。一般的に同一構造であれば,弾性率がより大きい方が振動数の変化はより小さいため,デバイ温度の圧力依存性の傾向とも一致する。これらのことから定性的ではあるが,キャリア密度の緩やかな上昇のもと,1 GPa を境に変化する格子の圧力変化がTcの増減に大きく寄与していると結論付け国際誌で報告した。 先行研究で高いTcが報告されたAu置換系の研究に着手した。トポロジカル量子性を有するか否かは結晶構造で決まる側面があり,Pt置換系の先行研究では母物質ほど顕著ではないが表面超伝導を示唆する結果が得られている。そこで,本課題研究ではAu置換系の研究に着手し,今年度は多結晶試料の作製,および常圧下の物性評価として超伝導転移温度と第二種超伝導体への変化を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題研究は,ディラック半金属PdTe2の超伝導性への圧力効果の解明が目的のひとつである。申請段階では,P~5 GPaで観測された超伝導転移温度(Tc)の極大と,同圧力域で理論予測されたトポロジカル相転移との関連を予測していた。しかし,このTc極大は再現性の確認を目的とした複数回の電気抵抗測定において再現せず,1 GPa以上でのPdTe2本来のTc挙動は単調減少であり,5 GPaでのTc極大は構成元素Teの圧力誘起超伝導の可能性が高いことを初年度に明らかにした。ただし,これらの電気抵抗測定で得た実験結果と結晶構造解析から,圧力下の超伝導性でもうひとつの懸案であった1 GPaでのTc極大の解明に至ることができた。一方で,理論予測された圧力誘起トポロジカル相転移の超伝導転移への影響については表面超伝導に対する寄与を検討する必要がある。そのために表面敏感な測定手法の開発を行っているが,今年度はこの点が順調に進まない点があった。高圧装置内部の構成部品については初年度のうちに凡そ仕様を詰めたが,安定した圧力封止に向けた測定試料周辺部の改良については今年度内の仕様確定には至らなかった。ただし,PdTe2における表面超伝導由来のスクリーニングについては常圧および高圧下の交流帯磁率測定法で観測されている。そのため,新規測定の開発に並行して,代表者の所属機関にて高圧力下交流帯磁率を実施できる環境を整備した。この点も踏まえて今年度の進捗状況を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.新規測定法の構築については安定した圧力発生が必要不可欠であり,引き続きこの点の改良を進める。試料室周辺に用いられるフッ素樹脂について各材料で荷重への応答も確認する計画である。また,コロナ禍の影響により高圧セル内の構成部品の価格が高騰しているため,代表者の所属機関において加工できる環境を整え,試験測定の推進につなげたいと考えている。 2.項目1の開発が順調に進まない場合には,PdTe2の表面超伝導の評価については交流帯磁率測定を実施する。超伝導転移温度の圧力・磁場依存性を観測し,超伝導性およそ超伝導相図の圧力依存性においてトポロジカル相転移に関連する振る舞い,すなわち相転移の発生が予測される4.6-5.7 GPa付近で物性に変化がみられるかを確認する。ただし,次年度期間は代表者の所属期間のヘリウム液化機の更新に伴い運用が一時停止する見込みのため,超伝導転移温度の低いPdTe2の測定が進まない場合には項目3を優先して実施する。 3.期間2年目より本物質系の包括的な理解を目指して,Pdサイトの一部を元素置換した系の研究を開始し,前述したように,すでに元素置換された多結晶試料の合成にも着手している。元素置換系は母物質よりも超伝導転移温度が高い傾向にある。多くの物質は2 Kを十分に上回るため,汎用的な装置(物理特性測定装置)が利用できる。ゆえに,元素置換系の物質群について,まずは多重極限下で物性測定を行いバルク超伝導の性質を明らかにする。
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Research Products
(7 results)