2020 Fiscal Year Annual Research Report
Experimental verification of replica-symmetry-breaking in real spin glasses
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20H01852
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田畑 吉計 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00343244)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒川 修 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90303859)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピングラス / レプリカ対称性の破れ / 磁気ノイズ測定 / スピン偏極STM |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、現実のスピングラス(SG)物質におけるレプリカ対称性の破れ(RSB)の有無を、スピン配列の重なり分布関数P(q)を観測することで検証することを目的としており、P(q)の観測方法としては、(I)磁気応答測定による間接的な観測(研究代表者:田畑が担当)と、(II)スピン偏極STMによる直接観測(分担者:黒川が担当)を目指している。 (I)に関しては、まず、長距離のRKKY相互作用が働くイジングSG物質Dy(Ru,Co)2Si2の磁化緩和測定から、幅広い温度時間領域でのSGドメインサイズを測定し、その成長則を調べた。その結果、SGドメイン成長はSG相転移の臨界ダイナミクスに支配されていること、臨界緩和時間によるスケール時間で4桁に渡って冪乗成長すること等が分かった。このSGドメインの冪乗成長則はRSB SGにおけるドメイン成長の特徴である。また、SGドメインのエネルギー障壁のドメインサイズ及び温度依存性を詳細に解析したところ、同じドメインサイズでも低温ほどエネルギー障壁が低いことを見出した。これは降温と共に新しい安定状態が階層的に出現するRSB SGが実現していることを強く示している。さらに、低消費型ヘリウムバスクライオスタットを購入し、P(q)の間接測定のための磁気ノイズ測定システム整備を進めた。 (II)に関しては、SG状態の乱雑に凍結したスピン配列の実空間観測のための、低温環境におけるスピン遍極STMの装置整備を行なった。但し、コロナ禍のため、装置改造に関する打ち合わせなどを当該企業と行うことが出来ず、2021年度に繰越して行なった。2020年度内には、低温での測定の準備として、Dy(Ru,Co)2Si2を液体窒素温度で劈開させて表面観測し、明確な原子分解能像が得られること、STS測定による電子状態密度測定が可能であること、などを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題遂行のための2つの実験プロジェクト、スピン配列の重なり分布関数P(q)の(I)磁気応答測定による間接的な観測と、(II)スピン偏極STMによる直接観測の内、(I)に関しては「研究実績の概要」にある通り、2020年度内に当初の予想よりも多くの成果が得られ、順調に進んでいる。一方、(II)に関しては、SG状態の凍結した乱雑なスピン配列の直接観測を可能とするために、分担者所有のSTMのスピン遍極モードへの改造と低温測定用の環境整備を行う予定であったが、コロナ禍により当該企業との打ち合わせが著しく遅れたため2020年度内で進めることが出来ず、これらSTMの改造は2021年度に繰越して行うこととなった。「研究実績の概要」にも簡便に記載した通り、2021年度末までには整備も済み、低温でスピン遍極STM測定が行える状態となった。具体的には、スピン遍極測定用の磁性Cr短針製作のためのArイオンスパッタガンの導入、低温測定環境のための温度計の導入や温度制御用加熱ヒータ付サンプルホルダーの設計作製を行なった。しかし、1年遅れの整備であったため、この遅れと磁気応答測定の方の進捗状況を踏まえ、研究課題全体としては「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
(I)に関しては、2020年度の進捗を踏まえ、様々なプロトコルにおける磁化応答の観測を行い、RSBの検証をすると共に、2020年度に購入した低消費型ヘリウムバスクライオスタットに組み込む磁気ノイズ測定用のSQUIDプローブを開発し、SG状態のP(q)間接測定のためのシステムを完成させる予定である。 (II)に関しては、2021年度に繰越して整備した低温環境スピン遍極STMを使って実際に試料の測定を行い、スピン配列の観測が可能であることを検証する。スピン配列の観測のためには、試料を劈開させた際に磁性を担うDy原子が最表面に出た状態が望ましいが、結晶構造からは、劈開面はDy面とSi面の何れかが考えられ、未だ結論が出ていない。STSによる実験結果と第一原理計算とを比較することで劈開面の特定を行う。その上で、SG転移温度(約10K)以下まで試料を冷却し、磁性Cr短針によりスピン遍極STM測定を行い、SG状態の乱雑に凍結されたスピン配列の実空間観測、それによるP(q)の直接観測を目指す。
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Research Products
(3 results)