2021 Fiscal Year Annual Research Report
多自由度を持つ電子系の超伝導体における奇周波数電子対の物理
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20H01857
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
浅野 泰寛 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (20271637)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田仲 由喜夫 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (40212039)
水島 健 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 准教授 (50379707)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導現象は電子対の存在を仮定した平均場理論によって大変うまく記述できている。奇周波数電子対は、その基礎方程式であるボゴリューボフ・ドゥジェンヌ(BdG)方程式の解の一部をなしており、超伝導現象を記述するためには不可欠の存在である。しかし、超伝導ギャップの中のトポロジカル表面準粒子を支える、あるいは常磁性を示すなど、むしろ超伝導秩序を弱める役割を果たしているように思えるのである。本研究では、奇周波数電子対が超伝導体中に存在する理由を明らかにすることを目的として研究を行った。その実績を以下に示す。 軌道や谷などフェルミ面上の電子が付加的な自由度を持った超伝導体の代表的な例が、J=3/2超伝導体である。スピン軌道相互作用が強いため電子の角運動量がJ=3/2と大きくなっているのが特徴的な性質である。我々は、このような超伝導体の間を流れるジョセフソン電流の特徴を理論的に調べた。その結果、超伝導体に一様に存在する奇周波数クーパー対のためにジョセフソン選択即が大きく変更されることを見出した。時間反転対称性の破れたJ=3/2超伝導体の特徴として、ボゴリューボフ・フェルミ面の存在が知られていたが、我々はボゴリューボフ・フェルミ面上の準粒子が必ず奇周波数クーパー対と共存することを示した。 スピン一重項d波対称性のクーパー対が担う銅酸化物高温超伝導体の薄膜にスピン軌道相互作用を加えることで、スピン3重項超伝導体のような性質を獲得することを理論的に示した。スピン軌道相互作用によってスピン3重項p波クーパー対の相関がd波超伝導薄膜中に一様に発達し、超伝導薄膜の端には奇周波数スピン3重項s波クーパー対が生成することを示した。また、数値シミュレーションを用いて、スピン3重項超伝導現象の代表である異常近接効果を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍において、国内外における研究集会への参加、研究分担者との議論および討論、博士研究員が採用を見送らざるを得ない状況が続いたが、研究の実施の順を入れ替えるなどで当初予定していた成果をあげることができている。特に、J=3/2超伝導体や多軌道超伝導体に関する課題の中で、重要な発見があった。これまでいくつかの理論模型が提案されてきたが、それらの多くが安定な超伝導相を持たない可能性があることがわかってきた。さらに、不安定化の要因を具体的に明にしただけでなく、安定である超伝導そうはどうあるべきかを定性的に示すことができた。 実験で観測される多自由度超伝導が秩序相として安定であるならば、どのような理論模型を考察すべきかがはっきりとした。 その上で、熱力学的に安定な超伝導を記述する模型に基づき、超伝導体の磁化率を計算する処方箋を確立し、実行に移すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで計画にそって研究を実施したことによって、新たな研究課題が派生している。それらを列挙すると、熱力学的に安定な多自由度超伝導相の記述、 人工的に実現されうる多自由度超伝導相の不安定性とその実験的克服、特徴的な物理現象を観測する実験法の提案、軌道角運動量を持つ超流体の性質の解明とその観測、などである。 来年度に予定されている研究課題を実施しながら、これらの新規な研究課題に取り組む方法を考案するつもりである。
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Research Products
(11 results)