2020 Fiscal Year Annual Research Report
New Quantum Thermoelectric Effects in Topological Semimetals under High Magnetic Fields
Project/Area Number |
20H01860
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長田 俊人 東京大学, 物性研究所, 教授 (00192526)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トポロジカル半金属 / 熱電効果 / 強磁場 / 有機導体 / ディラック電子系 / 非線形異常ホール効果 / 量子熱電ホール効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は強磁場量子極限下のトポロジカル半金属における新しい熱電現象を調べるものである。当初の目標は、(1)理論的に予測されていた2次元Dirac電子系のν=0量子Hall状態が示す「量子熱電Hall効果」を、層状有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の圧力下量子Hall強磁性状態を用いて実証すること、(2)3次元トポロジカル半金属における量子極限下の量子熱電Hall効果的由来の「非飽和熱電能」をグラファイト等を用いて調べることであった。 初年度は、まず有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の圧力下Dirac電子相における量子熱電Hall効果の検討を行った。熱電係数αxyの量子化を調べる前に熱電能Sxx磁場依存性を調べたところ、非飽和増大の代わりに「こぶ状」構造が確認された。 この実験の準備として圧力下電子状態を層間磁気抵抗の温度依存性から系統的に調べた過程で、Dirac電子系が現れる臨界圧力直下の「弱い電荷秩序状態」がギャップが開いたDirac電子系であることを確認し論文発表した[K.Yoshimura et al., J.Phys.Soc.Jpn. 90, 033701 (2021)]。 そこで有機導体初のトポロジカル輸送現象の探索を新たに研究目標に加えた。この弱い電荷秩序状態では、有限のBerry曲率双極子により「非線形異常Hall効果」が期待される。理論的予測と定量的評価を論文にまとめた[T.Osada et al., J.Phys.Soc.Jpn. 89, 103701(2020)]。 この予測の実証実験のために研究費を繰り越した。実験の結果、ゼロ磁場下で非線形異常Hall効果の観測に成功した。電流のBerry曲率双極子に対する向きに依存した異方性も確認し、論文に投稿した(圧力依存性の追加実験を加えて2021年度に出版された)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画の有機導体のDirac電子相における量子熱電Hall効果に関しては、有機導体特有の相対的に大きなZeeman分裂が量子熱電Hall効果に与える影響を理論的に解明し、それに即した実験が進行中である。その準備の過程で有機導体のDirac電子相直近の弱い電荷秩序相がギャップの開いたDirac電子系であることが明らかになった。 これは弱い電荷秩序状態で、有限のBerry曲率双極子により「非線形異常Hall効果」という有機導体初のトポロジカル輸送現象が現れる可能性を示唆する。そこで精密な理論構築と定量的評価を行ったところ、十分観測可能であることがわかった。これは当初予期しなかった展開であり、その探索を新たに研究目標の1つに加えた。研究費を繰り越して実証実験を行った結果、非線形異常Hall効果の観測に成功した。 以上、当初計画の有機導体における量子熱電Hall効果の研究に加え、当初計画になかった非線形異常Hall効果の観測にも成功したので、「(1)当初の計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は当初計画に、非線形トポロジカル輸送現象を研究対象に加え、以下のように研究を推進する予定である。 (1)当初計画の「有機導体のDirac電子相における量子熱電Hall効果」に関しては、従来の量子熱電Hall効果の理論にZeeman分裂の影響を取り入れた理論を完成して論文化すると共に、有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の強磁場下のDirac電子相で電気伝導・熱電効果同時測定によりαxyの量子化の兆候を調べる。 (2)当初計画の「3次元トポロジカル半金属における量子極限下非飽和熱電能」に関しては、まず点ノードを持つDirac/Weyl半金属に限られていた量子熱電Hall効果に由来する非飽和熱電能に関する従来の理論を、線ノードを持つグラファイトなどの半金属に拡張する。次にグラファイトのバルク結晶を用いて電気伝導・熱電効果同時測定によりαxyの量子化の兆候を探索する。さらにグラファイトを機械的劈開法により薄層化し、電子線リソグラフィー技術を用いて電気伝導・熱電効果の同時測定可能な微細素子構造へ加工して、薄層化による量子サイズ効果、特に量子熱電Hall効果の3次元から2次元への次元交差効果の探索を行う。 (3)新たに目標に加わった「有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の弱い電荷秩序相における非線形異常トポロジカル輸送現象」については、圧力依存性により電荷秩序と非線形Hall効果の相関関係を明らかにする等の追加実験を行い論文発表を目指す。またこの現象の熱電効果版である非線形異常Ettingshausen効果の予測と実験可能性の評価を行い、測定可能であれば性があればα-(BEDT-TTF)2I3を用いて探索実験を行う。
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Research Products
(8 results)