2020 Fiscal Year Annual Research Report
スピン流駆動型アインシュタイン・ドハース効果の理論構築と実証実験研究
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20H01863
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
松尾 衛 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 客員研究員 (80581090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
針井 一哉 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主任研究員 (00633900)
中堂 博之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (30455282)
成島 哲也 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 助教 (50447314)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピンメカトロニクス / アインシュタイン・ドハース効果 / バーネット効果 / 円偏光測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は弾性変形運動および流体運動する物体中のスピン輸送理論を、スピン渦度結合だけでなく大きなスピン軌道相互作用が共存する系に拡張するための予備計算を半古典近似のもとで行った。さらに、微視的理論構築の第一段階として線形応答の範囲内での解析をすすめた。 研究分担者の中堂は磁場中で高速回転体中に生じる直流スピン流を検出する方法を考案し、予備実験を行った。従来工業的に普及している回転体中からの直流電気信号検出はスリップリングであるが、これでは高速回転体中に生じる微小信号測定はできない。そこで、相互誘導を用いたインダクタンス法と、回転体中の電極と実験室系の電極を接触さないキャパシタンス法による信号検出を考案し予備実験を行った。 研究分担者の成島はスピン流の発生や伝搬等の現象を光により可視化するため、円二色性分析手法の高速化と高感度化を行った。具体的には、10^5倍高速な円偏光変調の実証を行った(特願2021-029181号)。円二色性の検出感度については、以前の方式と比較し、より短い計測時間でも感度が概ね一桁程度向上した。また、レーザーパルスのレプリカを左と右の円偏光に対応させることにより、レーザーの時間変動ノイズに影響を受けない安定した計測を可能とした。 研究分担者の針井は表面弾性波の回転が作るバーネット磁場の測定を目指して、高感度高空間分解能の磁場測定が可能なダイヤモンドNV発光中心を用いたin situ磁場測定系の構築を行った。10^14/cm^2程度の高濃度のダイヤモンドNV中心を表面近傍に有するダイヤモンド基板を作製し、同時にダイヤモンド基板上に表面弾性波を励起するくし形電極を微細加工する技術を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は弾性・流体運動する物質にスピン軌道相互作用の効果を含めたスピン輸送の理論構築の予備計算を現象論的アプローチで行い、拡張された連続体方程式とスピン拡散方程式に登場すべき項の性質を半古典近似の範囲内で調べ始めた。さらに、スピン注入によって弾性体・流体に働くトルクを現象論的に特定した。 研究分担者の中堂は高速回転体中に生じる直流スピン流を検出する実験においてインダクタンス法、キャパシタンス法の両方で試料を作成し予備実験を行った。インダクタンス法においては予想より遙かに大きな信号が検出されたため、おそらく磁場中で試料を回転している事による電磁誘導を主に検出していると思われる。キャパシタンス法では回転体中の電極をバランス良く取り付けるのが難しく1kHz未満の回転速度しか得られなかった。 研究分担者の成島は高い繰り返し周波数をもつパルスレーザーを利用し、従来よりも桁違いに高速な円偏光変調法を開発し、それによるスピン流等の顕微イメージング分析を目指している。所期の目標通りに高速な円偏光変調手法を確立することができ、想定以上の高感度化も達成できた。現在、得られた高速性をリアルタイム分析に活かすべく、必要な要素技術(高速試料ステージの組込み、ソフトの高速処理対応)の改善に取り組んでいる。 研究分担者の針井はマイクロ波プローブを使ってくし形電極に高周波を導入しながら、ダイヤモンドNV中心の光学検出磁気共鳴(ODMR)を共焦点顕微観察可能な測定系の設計・構築を進めている。窒素イオン注入と真空アニールを組み合わせたダイヤモンドNV中心作製法を使った高濃度ダイヤモンド基板において、高いODMRコントラストが得られることを確認した。予備実験としてダイヤモンド基板上にマイクロ磁性体を微細加工し、ODMRを用いた磁化方向の検出に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は次年度、現象論的、半古典近似の範囲内で調べ始めたスピン注入由来の弾性体・流体へのトルク計算を、非平衡グリーン関数法を用いた微視的アプローチへと拡張し、現象論的に与えられた未知パラメタの微視的表式を与えることを目指す。 研究分担者の中堂は、インダクタンス法においては相互誘導コイルや回転軸と磁場方向のミスアライメントによる誘導起電力を除去する必要があるため、再度試料を作成し、また装置のアライメントを調整する。キャパシタンス法においても試料作成のプロセスを見直し、バランスの良い電極の付け方を考案し、高速回転を実現し、スピン流測定を目指す。 研究分担者の成島は初年度、主に円二色性分析系の改善を行った。今後は、磁場や温度勾配を印加できるよう試料ホルダーまわりの改造を進め、局所的に蓄積されるスピン流等の時空間的な特性の観察と解明を試みる。併行して、MFMやSNOM等のプローブ顕微鏡技術も適宜組み合わせ、ナノスケールでの現象解明も行う。 研究分担者の針井は、表面弾性波の作るバーネット磁場測定を実施する。ダイヤモンドは圧電定数を持たないので、圧電物質のスパッタを行い、電気的に表面弾性波を励起可能な積層膜構造を作る。並行してODMRの空間イメージングを行える光学系を整備を行い、空間的な磁場分布の測定を行う。
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Research Products
(8 results)