2020 Fiscal Year Annual Research Report
二次元細胞集団の相状態とダイナミクス:局所秩序構造の定量手法の開拓
Project/Area Number |
20H01870
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 暁久 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (90706805)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野 盛夫 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40426531)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ソフトマター物理 / 細胞集団 / 秩序構造 / 位相的データ解析 / 医学物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、上皮系細胞集団における細胞の局所的な配列秩序に着目し、細胞集団の秩序形成過程と摂動に対する再配列過程における局所的な秩序の維持・喪失ダイナミクスの時空間パターンを細胞スケールの精度で定量的に記述する新たな物理モデルを構築する。多細胞集団がつくる局所的な配列秩序の定量から集団全体の相状態と安定性を記述する新たな枠組みを提案する。臨床医学の課題に直結するヒト角膜内皮細胞を用い、さらにその細胞生物学的な特性を制御した上で細胞集団の配列秩序と安定性を実験的に検証する。 細胞集団の成熟過程における秩序形成および細胞死を補償する細胞再配列過程を測定するための実験を計画していたが、コロナ禍の影響を受けヒト角膜内皮細胞の十分な供給を得ることができなかった。そこで細胞接着を精密に制御するために固体支持脂質二分子膜の表面を接着タンパクにより機能化した基板の最適化を行った。また、二次元平面内で高密度な細胞集団において一細胞ごとの細胞―基板間接着界面の形状を精密に測定するために、反射干渉顕微鏡法の光路を顕微鏡に新たに組み込んだ実験系の構築に着手した。 細胞集団における局所的配列秩序の可視化と評価を行うために、再生角膜内皮画像および培養ヒト角膜内皮のスナップショット画像に対するパーシステントホモロジー解析を行った。再生角膜内皮組織・培養角膜内皮細胞集団でともに、高品質と低品質と二分した際に細胞集団が局所的に特徴的な配列構造を持つことを見出した。 また、培養されたヒト角膜内皮細胞および細胞注入療法によって再生した角膜内皮の長期予後の臨床評価と細胞配列秩序に関する解析の結果を研究分担者・上野らとまとめた(上野、山本ら、投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍の影響により臨床的な品質を担保した培養ヒト角膜内皮細胞の供給を受けることが困難であったため、予定していたような細胞集団の動力学的な実験には遅れが生じた。そのため、37℃条件において液晶相およびゲル相をとる異なる固体支持脂質二分子膜の表面を接着タンパクで機能化した基板を作成した。また、基板上の細胞接着形状を精密に測定するために反射干渉顕微鏡の光学系を新たに構築した。 また、局所的な細胞秩序を定量する手法として、パーシステントホモロジー解析を二次元細胞集団に適用するアルゴリズムの開発に取り組んだ。再生角膜内皮組織と培養角膜内皮細胞集団それぞれの画像を、臨床的な細胞品質評価に基づいて分類した際に、特徴的な局所配列構造が異なることを明らかにした。 角膜内皮の長期予後の臨床評価と細胞配列秩序に関する解析では、高品質な細胞によって再生した角膜内皮においてより高い細胞配列秩序が長期にわたって保たれ、さらに患者の長期予後も良いことを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、臨床的な品質をもつ培養ヒト角膜内皮細胞が得られるまで細胞株を用い、細胞配列の形成過程を観察する実験に着手することを計画している。この細胞の表面タンパク発現量等を評価することで細胞生物学的な細胞品質特性を評価し、局所的な秩序形成との関係を探る。また、細胞が高密度な二次元シートを作る過程における構造および、高密度な状態から細胞死を誘導した際に細胞再配列により得られる構造を観察する実験を推進する。 パーシステントホモロジーに基づく細胞集団の位相幾何的な局所秩序構造の評価についてはこれまでに得られた成果をもとに、高品質・低品質な細胞群においてそれぞれの局所秩序構造の特徴がどのように異なるかをより詳細に解析する。 また本研究で取り組んでいる細胞組織の秩序構造が臨床的にも有用である知見がえられつつある。そこで研究分担者・上野と協力し、これまで臨床的に記録されてきた角膜内皮組織の画像データを収集し、手術法や移植組織品質・患者の状態等によって細胞秩序の定量化が広範な臨床指標となり得るかどうかを検討する。
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