2021 Fiscal Year Annual Research Report
QCD phase diagram explored by chiral fermions
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20H01907
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
青木 保道 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, チームリーダー (20292500)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 格子QCD / 相構造 / コロンビアプロット / 3フレーバー / カイラルフェルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は有限温度QCD相図:コロンビアプロットのうち左下の一次転移とクロスオーバーの相境界が予想される領域(左下四半)の決定を行うことを目的としている。大規模数値計算に用いる格子手法として、カイラルフェルミオンの実用的な定式化である、Domain Wall Fermion (DWF) - メビウス定式化とstout smearing による改良を施したもの - を用いる。 2年目となる今年度は、3つの点で重要な進展があった。第1として、ゼロ温度の格子パラメタの理解が進展し、格子上のパラメタ(ゲージ結合と入力クォーク質量)と物理スケールとの対応が、高々数%の誤差で求まった。これにより、他の格子作用(非カイラル)を用いた先行研究との精密な比較が可能となった。 第2として、DWFのカイラル対称性の破れの残存量や、カイラル相転移の秩序変数の測定、また、後者の紫外発散の除去の手法に理解が進み、相が変わる領域の振る舞いが明瞭になり、その位置と物理点との対応が明確になった。 第3として、HPCI研究課題で「富岳」の計算資源の獲得に成功したことで、相図の広範囲の探索を遂行できた。ゲージ結合定数β=4.0(連続極限と滑らかに繋がる安全領域内ではあるが境界付近)でのコロンビアプロットの対角線上の相探索は、二つの質量基準点で行われた。複数の体積のシミュレーションが完了し、どちらもクロスオーバーである事が確認された。さらに3つ目の基準点として、概算度温 T=130 MeV (虚時間方向の格子点数 Nt=12)、概算転移クォーク質量 m=5 MeV 付近での結果が一つの体積で求まるに至った。この質量は、ウィルソンフェルミオン(WF、非カイラルな先行研究)の同じNtで観測された臨界終点の1/5程度であり、WFにくらべ、遥かにカイラル極限に近い領域の探索に足を踏み入れたことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3フレーバー縮退質量の系の格子パラメタとQCD連続理論のスケールとの関係が昨年度に比べ精密化が達成され、シミュレーションと物理点(現実世界)との温度、質量の対応が明確になった。また、物理量測定の精密化と「富岳」を用いた計算高速化により一挙に相図の対角線上の広範囲の情報が得られた。一方で、当初ウィルソンフェルミオン(WF)の情報から想定していた一次転移領の存在は、今のところ確認されていない。しかし、当初計画では想定されていなかった、近カイラル極限のシミュレーションに足を踏み入ることがこれまでの知見の蓄積から可能となったことで、次年度以降の更なる探索の方向性が定まった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では3フレーバー縮退質量系での臨界終点の決定の後に、非縮退質量方向の情報に延伸するとしていた。これは一次転移領域が存在し、臨界終点がゼロでないクォーク質量にある場合を想定している。現時点で近カイラル極限まで探索のリーチが伸びているが一次転移の兆候は見つかっていない。 3年目は近カイラル領域の3つめの基準質量点で、まず、複数体積の計算を実行し、その点がクロスオーバーか一次転移的であるかを判定することに注力する。 この結果を踏まえてクロスオーバーであれば、探索をカイラル極限方向に進め、深カイラル領域に踏み込む。これにより、一次転移が見つからない場合でも、カイラル極限で二次転移であるモデルとの整合正を質量スケーリングにより議論することが可能となる。 一方、一次転移であれば、クロスオーバーとの相境界の位置を求めるための探索を行い、臨界終点の決定に繋げる。 これらのシミュレーションは、既にHPCI課題の「富岳」を用いた最大計算資源でも一年程度かかるものである。3年目以降も「富岳」の資源獲得に努める。「富岳」の資源が得られない場合もありうるが、その場合には、探索を計算負荷の低い領域に設定する必要がある。温度が高く、質量が重い領域が対象になるため、その領域を4つ目の基準点として結果を導き、4つの基準点を用いた種々のスケーリングテストから、相構造の情報を最大限引き出す。
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Research Products
(7 results)