2020 Fiscal Year Annual Research Report
分子熱工学に基づく高性能な光アップコンバージョン結晶系の創出と学術基盤の構築
Project/Area Number |
20H02082
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
村上 陽一 東京工業大学, 工学院, 准教授 (80526442)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 分子熱工学 / 光アップコンバージョン / 熱力学と温度制御に基づく材料創製 / 結晶成長の熱力学と速度論 / 三重項励起子の輸送現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は,現在太陽電池等で未利用な長波長な光(低エネルギーな光子群)を,利用可能なより短波長な光(より高エネルギーな光子群)に変換する光アップコンバージョン(UC)に関する.太陽光に現状唯一適用可能な有機分子間の三重項-三重項消滅(TTA)を用いるUCでは,長波長光の吸収を担う増感分子と,TTAおよび短波長光の発光を担う発光分子とを組み合わせて行われる.これを応用に適した固体材料とするためには,両種分子を熱力学的に安定に混合させる必要がある. 本研究では,応用に適した熱力学的に安定かつ高効率な結晶性UC有機分子材料の創出,その材料形成の成否を支配する根本要因の解明, UC有機分子結晶中における励起子輸送の特性およびその支配因子の解明,を目的としている.そして,関連する基盤学術を,分子熱工学と熱力学の観点から構築することを目的としている. 本年度は,応募時研究計画調書に記載した液相からの析出法(ルート1)および融液からの多結晶膜生成(ルート2)について,当初計画通りに研究を進行させて以下の成果を得た. まず,ルート1については,様々な条件探索と試料評価とを経て,当初の狙い通り,高品質な光アップコンバージョン(UC)有機結晶の生成に成功した.これは加速試験により安定であることを確認し,また,アニール(高温保持処理)の影響を明らかにした.ルート2については,まずガラス基板を用いて温度プログラム制御下で有機分子膜の成膜を行い,UC発光を呈する平滑な多結晶膜の生成に成功した.ただし,これはまだ最適化には至っておらず,作製条件と特性との相関の解明,および作製条件の最適化は今後の課題である. さらに,励起子輸送特性を計測するシステムの立ち上げにも着手し,その基本となる光源,制御装置および部品の重要部分を整備して,次年度以降の展開の基盤を形成した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は本課題の初年度であるが,当初の計画と予定項目を順調に進められている.特に,材料創製の面では当該年度の後半に著しい進捗が見られ,次年度以降の展開の見通しが望ましく開けてきている.重要な側面として,励起子の拡散特性への見通しが,計測装置面だけでなく試料面からも開けてきている点が挙げられる.このように,全体としておおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,まず,今年度に生成に成功したUC有機分子結晶の諸特性を明らかにしてゆく.特に重要な解明すべき特性として,アップコンバージョン量子効率および単結晶X線計測による微細構造の決定をなるべく速やかに進め,それらを基に学術論文への投稿を進めてゆく計画である.ルート2については,上述のように,今年度は生成に成功したのみで最適化には至っていないため,次年度以降,作製条件と生成物の特性との相関の解明,および作製条件の最適化を行ってゆく計画である.特に成膜性と基板の濡れ性については検討を進めてゆく計画である.また,熱力学的安定性,光照射耐久性をを評価する実験も合わせて行ってゆく. 今後特に重要となるのが,励起子輸送特性の計測システムの構築と完成に向けた推進である.これには,一部光源の導入と,システムの制御系の構築(電気回路とプログラム作成)があり,これを着実に推進してゆく計画である.
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