2021 Fiscal Year Annual Research Report
薄膜界面における光誘起イオン拡散現象の制御と『フォトクロ電池』への展開
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20H02086
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
井上 修平 近畿大学, 工学部, 教授 (60379899)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イオン拡散 / シミュレーション / 活性化エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き界面でのイオンの移動現象を実験的、理論的に解明するための研究を遂行中である。Nudged Elastic Band (NEB)法によりスズ・マグネシウム酸化物中のマグネシウムイオンの拡散に関する活性化エネルギーをQuantum ATKを用いたシミュレーションにより推算した。マグネシウムの拡散経路を空孔拡散および格子間拡散に関して検討した。計算結果に関する信頼性を確認するため同様の手法で実験的なデータも多いリチウムイオン電池の電極に関しても計算を行った。 格子欠陥を移動する拡散に関してはリチウムイオンの拡散障壁に対して5倍程度のエネルギーが必要であることが分かる。この結果からマグネシウムはやはり2価の陽イオンであるために電気的力を受けやすいことが予想される。拡散機構自体は Li の拡散と変わりなく、近傍の拡散する原子の欠陥に向かう形での拡散を想定している。実際にリチウムイオン電池として用いられている LiFePO4 に比べ5倍のエネルギーが必要であるならば、この拡散が起きる可能性は低いと考えられる。次に格子間拡散に関する結果では、0。35 eV 程度であり Li の拡散エネルギーと同程度である。拡散エネルギーだけに着目すればこの拡散は比較的に起こり易いと考えられる。しかし、構造の部分に着目した際にマグネシウムが隙間を通り抜ける際に単位胞全体の構造が変化していることが確認された。これは計算系が単位胞であることで系内でのマグネシウムが大きく移動することによる影響が大きかったと考えられる。つまりマグネシウム単体の拡散エネルギーではなく、マグネシウムの位置が変わった際に安定な構造に変化している。実際の系では一部のマグネシウムの移動に過ぎないため結晶構造が変化するような動きはない。次年度はsuper cell構造を導入しエネルギーを見積もる事とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
半導体供給不足の問題で想定していた機器の納入が遅れるため一部予算の繰越しを行うこととなったが、研究そのものは順調に進展している。MTO(スズ・マグネシウム酸化物)結晶内のマグネシウムの拡散エネルギーを NEB 法によって求め、リチウムイオン電池の電極材料として使用される LiFePO 4 中のリチウムの拡散エネルギーと比較し、拡散可能性について議論できている。MTO 単位胞の近傍 Mg の欠陥への拡散では拡散エネルギーが 1。5 eV 程度であった。MTO 単位胞の中の隙間を Mgが通り抜ける拡散では拡散エネルギーが 0。35 eV 程度であり、Mgの拡散に伴い結晶構造が大きく変化した。これにより活性化エネルギーが過小評価されている可能性が示唆され次年度の課題としている。以上のように当初の目的通りシミュレーションが行えており、既存の材料との比較もできている。さらに次年度に検討すべき事が明確となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
計算の負荷の問題から単位胞による計算を行った。原子の移動に伴う構造変化により拡散障壁が過小評価されている恐れがある。また実験で得られる試料はアモルファスでありこれらを妥当な系でシミュレーションを行うためには複数の単位胞からなるsupercell構造による系を作成し、欠陥の導入などを行う必要がある。Supercellによる第一原理計算がCPU負荷の観点から難しいようであれば分子動力学法による自己拡散係数の見積と活性化エネルギーの評価を行う方針としている。次年度はアモルファス構造を模擬した構造に関してもシミュレーションを行う計画である。
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