2020 Fiscal Year Annual Research Report
Control of the quantum spin entanglement with ferromagnetic nanowindow
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20H02178
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
金井 駿 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (40734546)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量子ビット / スピントロニクス / 量子緩和時間 / 疑似量子ビット |
Outline of Annual Research Achievements |
量子応用向け色中心の重要な物性の一つに位相緩和時間がある。近年、位相緩和時間を計算する大規模行列計算を、現実的な時間で実行するための近似手法が開発され、これによりダイヤモンドやSiCといった、実験的に精力的に位相緩和時間が測定されてきた材料中の色中心の緩和時間が計算され、実験を良く再現することが分かってきた。これまで本手法はスピン1/2の核種の核スピンを持つ材料に限られてきたが、本研究ではこれを任意の核種へ拡張することに成功した。これにより、ダイポール相互作用が支配的な核スピンの相互作用、あらゆる母体材料での量子位相緩和時間を計算することが可能となった。その結果、これまで用いられてきたダイヤモンドやSiCと比較して、数十倍長い位相緩和時間を持つ母体材料を数種予言することに成功した。 疑似量子ビット応用が期待されている熱安定性の小さい磁気トンネル接合(s-MTJ)が注目を集めている。磁化ダイナミクス下における確率的ビットの振る舞いを数値計算により調べた。量子計算にも用いられるマスター方程式を簡略化した、フォッカー・プランク方程式に基づいた数値計算手法により、確率的ビットの緩和時間を説明した。本計算により、面内磁化容易軸を有するs-MTJは垂直磁化容易軸を持つs-MTJと比較して各ビット状態間の緩和時間が数桁高速になることが予見された。実際に面内磁化容易軸を持つs-MTJ素子を作製し、8ナノ秒での磁化反転を達成した。これはこれまで報告されていた値よりも100倍以上高速な値であり、疑似量子ビットを用いた”unconventional computing”における計算速度向上のための標準的材料・構造設計指針を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで主に用いられてきたダイヤモンドやSiC中の色中心に比較して位相緩和時間の長い母体材料を数種類予言した。これにより、磁性体・微細化と相性の良い母体材料、例えばSiO2などと言った、大型基板が容易に入手可能でダイヤモンドやSiCが持たない機能性を有する材料についても位相緩和時間が長く、量子研究プラットフォームとして有望であることなどが新たにわかった。本材料を用いることで、並行して進めているダイヤモンド上の磁性体ナノ構造素子の作製の高度化が可能となり、一層の研究の加速が予想される。 本研究で培ってきた行列計算を援用し、疑似量子ビットの設計指針を世界で初めて整理した。またそれを用いて世界最短のs-MTJの緩和時間を達成し、スピントロニクス疑似量子ビット研究の最先端研究へ寄与することとなった。加えて、これまで磁性体ダイナミクスでは考慮されてこなかった、エントロピの概念を導入することにより、観測された現象を統一的に理解可能であることが明らかになった。現代統計物理学に対しても寄与することとなり、疑似量子ビットに関連した本成果は新たに2つの萌芽研究を生み出した。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的に長い量子位相緩和時間を持つことが予測されたホスト材料を用い、実際に磁性体微細構造素子(ナノウィンドウ)を作製する。イオン注入量を変化させる事により、ナノウィンドウ中へ導入する欠陥量を制御する。ウィンドウ中へ導入した欠陥量は、PL光量及びバンチングにより計量する。コプレーナ導波路を作製し、RF磁場を導入することで、光学検出磁気共鳴測定を行う。これにより、単一欠陥中心及び相互作用下にある欠陥中心の光学検出スピンダイナミクスと、そのナノ磁性体からの勾配磁場による制御を測定する。色中心間の相互作用は、核スピン間の相互作用により決められる上記量子位相緩和時間計算の手法と類似の手法で表すことが可能であると考えられ、技術を援用しながら、新しい量子ビットの制御手法を明らかにする。 疑似量子ビットとして用いられるs-MTJについて、その外場(電流・磁場)に対する応答をフォッカー・プランク方程式に基づいて明らかにする。これは疑似量子ビットの制御に係る基本的な項目である。特に熱安定性、異方性、臨界電流に加えて反転指数と呼ばれる物理量が重要となり、これらの項目に対して、実験的にアクセスする手法を理論的に解明し、実際に実証する。現代統計物理学と深い関連がある、エントロピの時間変化について、実験的に検証する方法を調べ、実証する。
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Research Products
(23 results)