2020 Fiscal Year Annual Research Report
「液体Si-固体Si変換」の追及による液体Siエンジニアリングの創出
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20H02180
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
増田 貴史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 講師 (70643138)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 半導体 / シリコン / 電子線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は独自材料である「液体Si」を研究対象とし、電子線(EB)照射で進行する「液体Si→固体Si」変換の実証とその原理解明を目的とした。そして固体Si(ウェハ)や気体Si(シランガス)に立脚した従来のSi工学の延長では困難とされた「非加熱・非真空・ナノサイズ・3次元印刷」のSi製膜技術を創出することを目指した。本年度は考案したEB照射システムとして液相(LP)-電子線誘起堆積法(EBID)を構築した。一般的なEBIDがガス状前駆体を用いるのに対し、LP-EBIDは液状前駆体を用いる点を特徴とする。そしてLP-EBIDにより液体SiにEBを照射し、非晶質Siへの変換を実証した。更に照射線量を増量してゆくと結晶質Siが得られた。Si内の不純物濃度はエネルギー分散型X線分析で検出限界以下(1%以下)であった。原理上、ガス状前駆体を用いる一般的なEBIDは不純物の取り込みが避けられず、不純物濃度が30~90%に及ぶことが問題視されていた。従ってLP-EBIDによってこの不純物取り込みの課題を克服することができた。一方で「液体Si→固体Si」変換は今まで400℃の加熱工程が用いられてきたが、本研究ではEB照射により非加熱・非真空での変換を達成した。これは液体Si研究で当初から課題とされてきた高い焼成温度を克服する初めての成果となった。この成果はリンやボロンを化学ドープしたn型/p型の液体Siへも拡張された。これにより真正Siだけでなく、pnダイオードへの展開も開かれた。固体Si化現象を考察するためにモンテカルロシミュレーションと密度汎関数法を用いたが、いずれも良好な洞察を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度において電子線誘起型の「液体Si→固体Si」変換現象自体の実証をすることができた。EB照射システムを早々に構築し実験環境を得ることができた点が大きい。照射EBの直径と線量を制御可能であり、当該固体Si化現象の特徴を系統的に評価することができた。固体Si化はEB照射領域を中心にそれよりも一回り大きな領域で誘起されていた。実験では50nmφのEBを液体Siに照射したところ、100nmφの領域の液体Siが固体Siに変換された。照射EBの直径を絞れば局所領域での固体Si化が可能となる。その精度を物理的に理解するためにモンテカルロシミュレーションを用いた散乱体積の解析を進めている。他方、EBID実験でよく知られた「近接効果」をLP-EBIDでも確認した。近接効果は現象が複雑であり今後の検討課題となる。液体Si中間体の解析では、密度汎関数法(DFT)法を用いた解析に取り組んだ。液体SiにEBを照射した際に出現する反応活性種として幾つかの候補が挙げられるが、その中でも最も出現可能性の高いラジカルイオンの反応性を考察した。エンタルピーの計算から、EB照射によって出現する液体Siのラジカルカチオンが隣接する中性の液体Siから水素を引き抜き、最終的にラジカルとイオンとに分かれることを明らかとした。ラジカル反応は液体Siをネットワーク化(固体Si化)させる幾つかの反応経路を有していた。ただしどの反応経路もエネルギー障壁が十分に低いため、優先経路はまだ明らかになっていない。他の反応活性種(イオンや励起状態)の役割も要検討案件となっている。半導体素子への応用を見据え、ドープ液体Siを合成し、同様の手法によってp型とn型の固体Si化現象も確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では幾つかの重要な現象や物性の評価解析が重要となる。しかし液体Si材料自体の希少性と高い反応性故に、有意なデータを取得するために準備期間を要する。令和2年度はシミュレーションを中心としつつ、令和3年度以降の実験準備を進める。シミュレーションでは「液体Si→固体Si」変換現象の解明を中心に据え、主にDFT法による反応経路の探索を進める。ラジカル反応に加え、イオン、ラジカルイオン、励起状態の反応性を評価解析してゆく。モンテカルロシミュレーションにより、散乱体積と固体Si化の相関を系統的に評価し、二次電子/一次電子のどちらがより強く固体Si化に影響を与えるのかを明らかにしてゆく。これは化学的には液体Siの電子線重合の解明と言える。実験的には近接効果の現象を検証する。近接効果自体は一般的なEBIDでも見られる現象であるため、それら事例との比較を中心とする。そして不本意な固体Si化や意図しないEB散乱等の影響を可能な限り抑え、固体Si化の精度(解像度)向上に繋げる。また固体Si化では照射線量に応じて非晶質~結晶質Siが得られるが、このEB誘起の結晶化現象を明らかにする。得られるのは多結晶Siであるが、結晶粒のサイズを決定する因子を明らかにする。現時点では電子のド・ブロイ波の波長と関連がありそうに思われる。そして結晶粒のサイズを可能な限り大きくしつつ、固体Si化を誘起する領域を小さくすることで単結晶Siの直描技術に繋げる。装置面では、液体Si専用のLP-EBID装置の作製を検討しつつ、既存装置の改造でどこまで対応可能かを見積もる。
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Research Products
(6 results)