2021 Fiscal Year Annual Research Report
「液体Si-固体Si変換」の追及による液体Siエンジニアリングの創出
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20H02180
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
増田 貴史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 講師 (70643138)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は独自材料である「液体Si」を研究対象とし、電子線(EB)照射で進行する「液体Si→固体Si」変換の実証とその原理解明を目的とした。そして固体Si(ウェハ)や気体Si(シランガス)に立脚した従来のSi工学の延長では困難とされた「非加熱・非真空・ナノサイズ・3次元印刷」のSi製膜技術を創出することを目指した。本年度は実験設備に大きなトラブルが発生したため、主にシミュレーション解析を中心とした。本研究で開発した液相(LP)-電子線誘起堆積法(EBID)は、液体Siに直接電子線照射を行い、液体Si内部に反応活性種を生じさせる。この活性種の候補となるのはラジカル、カチオン、ラジカルカチオン、励起状態、の4種類が考えられる。これら活性種のうち液体Siの固体化(3次元ネットワーク化)に寄与しうる活性種の反応機構を考察するために、モンテカルロシミュレーションと密度汎関数法を用いた。その結果、特にラジカルカチオンが液体Si→固体Si変換で重要な役割を果たすことが示唆された。ラジカルカチオンがひとたび系内に出現すると、中性の液体Siと反応してラジカルとカチオンを生成する。結果として系内には少なくとも3種類の中間体(ラジカル、カチオン、ラジカルカチオン)が混在し、とても複雑な反応が進行する。またモンテカルロ計算から、中間体が発生する領域は、電子線照射する領域の直系に対して2倍程度の広がりを持つことも明らかとなった。このことから液体SiのLPEBIDの反応はかなり複雑であり、より詳細な実験が必要との結論を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は3つのタスクに分けて実験を進めている。1.固体Si化現象の観察では、EB照射システムの構築と、EB照射による「液体Si→固体Si」変換の実証に努めた。照射するEBの直径と線量を制御することで、当該変換現象の特徴を追求した。固体Si化変換は、EB照射領域を中心にそれよりも一回り大きな領域で誘起されていた。実験では50nmφのEBを液体Siに照射したところ、100nmφの領域の液体Siが固体Siに変換された。照射EBの直径を絞れば、局所領域のみに固体Siを堆積させることが可能となることを示唆している。ただし照射線量が2pC以下ではこの固体Si化現象は誘起されなかった。モンテカルロシミュレーションを用いた散乱体積と強度の解析を進めている。他方、EBID実験でよく知られた「近接効果」を、LP-EBIDでも確認した。近接効果は現象が複雑であり今後の検討課題となる。2.液体Si中間体の解析では、密度汎関数法(DFT)法を用いた解析に取り組んだ。液体SiにEBを照射した際に出現する反応活性種として幾つかの候補が挙げられるが、その中でも最も出現可能性の高いラジカルイオンの反応性を考察した。反応エンタルピーの計算から、EB照射によって出現する液体Siのラジカルカチオンが隣接する中性の液体Siから水素を引き抜き、最終的にラジカルとイオンとに分かれることが分かった。ラジカル反応は液体Siをネットワーク化(固体Si化)させる幾つかの反応経路を有していることも明らかとなった。ただしどの反応経路もエネルギー障壁が十分に低いため、優先経路はまだ明らかになっていない。他の反応活性種(イオンや励起状態)の役割も要検討案件となっている。3.半導体プロセスへの応用では、ドープ液体Siを合成し、同様の手法によってp型とn型の固体Si化現象を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に発生した実験環境の深刻なトラブルの回復が必要なため、引き続き環境整備の再構築に努める。実験環境が回復した後は、p型およびn型の液体Siを用いたドープSi膜の形成に取り組む。液体Siに添加(溶解)可能なドーパントには幾つかの候補材料が存在するが、LP-EBIDに適切なドーパントの探索、またドープ機構の解明、活性化率の評価、膜特性の解析などが取り組み内容となる。p型ドーパントにはAlもしくはBの化合物として、アラン錯体、ボラン錯体、デカボランなどを検討しているが、候補材料の探索は続ける。一方でn型ドーパントはNもしくはPの化合物としてアミン錯体、リン(黒、赤、黄、白)などを検討している。液体Siは反応活性が高くルイス酸として振る舞うことがあるため、ルイス塩基性を示す化合物とは容易に反応が進行する可能性がある。この化学反応と、電子線(EB)照射時の励起もしくは分解反応、および発生した活性種の反応等、いくつかの反応が絡まりあうことが想定されるため、シミュレーション解析は引き続き行う。ドープ液体Siの一部は酸素活性が高くなる(酸化しやすくなる)ことから、LP-EBID装置の安全性を高める改良も進める。
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