2021 Fiscal Year Annual Research Report
Creation of new magnetic wire memory with rare-earth and transition-metal ferri-magnetic magnetic wire that achieves both ultra-low power consumption and ultra-high speed
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20H02185
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
粟野 博之 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40571675)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 磁性細線 / 電流磁壁駆動 / 電流磁壁移動速度 / 希土類・遷移金属合金 / 電流パルス幅 / 電流密度 / 角運動量補償組成 / 温度依存性 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁性細線メモリにおけるデータ転送レート向上には、磁壁移動速度の高速化が必要となる。最近、外部磁界による磁壁駆動速度向上のため角運動量補償組成の利用が効果的であるという報告があることから、GdFeCoフェリ磁性細線による電流磁壁駆動の検討を行った。GdターゲットとFe90Co10合金ターゲットのコスパッタ法で作成し、GdとFeCoがそれぞれ23.5at%, 76.5at%くらいが角運動量補償組成、24.5at%, 75.5at%くらいが磁化補償組成であることがわかった。そこで、GdFeCoのGd組成を17at%から30at%までの広範囲で組成の異なる磁性細線を作成し、磁壁駆動電流密度と磁壁移動速度の関係を調べた。その結果、Gd24FeCo76の磁性細線の磁壁移動速度が1500m/secを超えることが分かった。 また、このレーストラックメモリの応用先としてキャッシュメモリへの展開が期待されている。そこで、キャッシュメモリとして要求される動作温度範囲40℃~70℃の温度範囲における磁壁の動作速度を測定した。一般に、角運動量補償温度では速度は速いが、その温度範囲は狭く磁壁移動速度は急激に減少することが懸念されていたが、実験結果では40℃~70℃の温度範囲で磁壁移動速度は1200m/secほぼ一定であることが確認できた。確かに室温付近で角運動量補償温度では速度が1500m/secを超えるが、その温度以上での速度低下がわずかであることがわかった。 本研究の目的は、磁壁移動速度向上と駆動電流密度低減の両立である。そこで、磁壁移動速度を駆動電流密度で規格化した磁壁移動度の低減条件を調べた。その結果、駆動電流密度を固定して駆動電流パルス幅依存性を調べると、パルス幅3nsecのときの磁壁移動度はパルス幅30nsecに比べて2倍以上向上することがわかった。これは報告例より一桁大きく世界一である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である磁壁移動速度向上と駆動電流密度低減を両立するための磁壁移動度向上には、印加電流パルス幅の低減が有効であることがわかった。そこで、この原因を調べるために印加電流パルス幅の違いによる熱分布を有限要素法を用いた熱計算で求めた。すると、パルス幅3nsecの時には磁性細線中央と細線エッジの温度差がほとんどなく、パルス幅30nsecの場合には、両者の差が大きいことが分かった。細線中央部の温度が高いと磁壁のエネルギーが低くなり、電流で磁壁は動きやすくなる。しかし、細線エッジの温度が低いと磁壁は動きにくくなることが考えられ、これが長いパルス幅で磁壁移動速度が遅くなっている原因として考えられる。 そこで、スピン軌道トルクを担うジャロシンスキー守谷相互作用とスピンホール効果を調べるために、細線方向に外部磁界を印加した状態で磁壁構造をネール磁壁成分とブロッホ磁壁成分の比率を変えた状態で磁壁移動を測定してみた。外部磁界がネール磁壁成分を増加させると磁壁移動速度は向上し、逆にブロッホ磁壁成分を増加させると磁壁は動きにくくなり、磁壁が動かなくなった磁界をジャロシンスキー守谷相互作用磁界(DMI磁界)と呼ぶ。一方、磁界に対する磁壁移動速度の変化量はスピンホール効果(SHE)の大きさを示す。そこで、パルス幅3nsecと30secでDMI磁界を比べてみると、3nsecのほうが30nsecに比べて2倍であった。これはパルス幅3nsecと30secの磁壁移動速度の比率2倍と同じである。一方、磁界に対する磁壁移動速度の変化量が示すスピンホール効果(SHE)は3nsec, 30nsecどちらも同じ値であった。一般に、DMI磁界やSHEは材料定数と考えられていたが、同じ材料でも測定方法で異なる値となることを見出した。これらは熱計算から推定される磁壁形状に依存していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的である磁壁移動速度向上と駆動電流密度低減を両立するための磁壁移動度向上には、印加電流パルス幅の低減が有効であり、その原因は印加電流による細線内熱分布であると考えられる。これまでの実験は熱伝導性の良いSi基板を利用したものであった。一方、当先行研究では、ナノインプリントプラスチック基板の有効性を確認している。Si基板に比べてプラスチック基板では磁壁の駆動電流が一桁小さい。そこで、ナノインプリントプラスチック基板上に磁性細線を作成し、印加パルス電流幅を狭くして、磁壁の駆動電流密度と磁壁の移動速度を測定する。ただし、プラスチック基板は熱伝導率が非常に小さいため、電流によるジュール熱分布が大きくなると予想される。そこで、ナノインプリントプラスチック基板の磁性細線における、印加電流パルス幅と磁壁移動速度の関係をSi基板と比較できるように実験を行う。また、Si基板上とプラスチック基板上では、角運動量補償組成も異なる可能性があるため、これも確認する。 ところで、昨年度の成果である磁壁形状と磁壁駆動速度の関係を考えると、熱伝導度の小さなプラスチック基板の場合、細線中央と細線エッジの温度差が大きくなり磁壁移動速度がむしろ遅くなることが想像できる。そこで、GdFeCoに比べて一桁電気伝導率の高い、すなわち熱伝導率の大きな重金属Pt層の厚さによる影響も明らかにする。これにより熱分布を均一化できると期待できる。また、Pt層が厚くなると電流がPt層を多く流れるのでスピンホール効果が大きくなることも期待できる。 上記結果の応用戦略として、レーザーアニールで平坦な磁性膜に磁壁駆動経路を作る新しい磁性細線作成法にもチャレンジする。アニールしたラインの一部に磁区を形成し、薄膜全体に電流を印加すると、アニール経路に磁区を閉じ込めて駆動することが可能と考えられ、メモリ&ロジック設計が容易になる。
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Research Products
(13 results)