2020 Fiscal Year Annual Research Report
シリコンを含む磁性接合におけるスピン伝導物理の解明と制御
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20H02199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中根 了昌 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (50422332)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 電子デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、その応用に極めて有望なデバイスであるスピン偏極電子を用いたシリコンベーススピントランジスタの開発を最終目標とする。このデバイスは不揮発メモリとトランジスタ特性を併せ持つ特徴を有し、超低消費電力な情報処理回路への応用が可能である。この開発のためには「高効率なスピン偏極電子の注入・検出源のシリコン上への創製」が必要であり、その基盤となる「シリコン二次元反転チャネル中でのスピン伝導物理の解明と制御」「スピン伝導物理の定量的な解明とスピン注入・検出源の技術開発」を行う。 本年度は「シリコン二次元反転チャネル中でのスピン伝導物理の解明と制御」を中心におこなった。スピン注入検出源にFe/Mg/MgO/n+-Si磁気トンネル接合を持つチャネル長10ミクロンメートルのバックゲート型スピン電界効果型トランジスタを作製して、室温から低温においてチャネル中でのスピン伝導による明瞭なスピンシグナル(スピンバルブシグナル、ハンルシグナル)を得た。これらに加え、同一基板上に作製したHallbarから、伝導率、移動度などのシリコンチャネルのパラメータを得た。それらのパラメータを用い、スピンシグナルを解析式でフィッティングすることで、スピン依存伝導に関わるパラメータを得た。また、デバイス作製直後とポストアニールをおこなった電子移動度の異なる結果を比較した。電子の運動量散乱に対するスピンフリップ散乱の割合が温度に寄らず一定であること、アニールにより比が若干大きくなることを明らかとした。また、ソースドレイン間の横方向電界によってドリフト電流を上げることにより実効的スピン拡散長の増大を確認し、ポストアニール後のデバイスでは低温において二次元チャネル中でのスピン散乱が2%程度となった。従って、移動度の高い二次元チャネルを用いることが高いスピンシグナルを得るために必要であることを明確に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、「スピン伝導物理の定量的な解明とスピン注入・検出源の技術開発」について進める予定であった。しかし、様々な理由によって新規トンネル接合を持つ新規デバイスの作製が困難であったため、「シリコン二次元反転チャネル中でのスピン伝導物理の解明と制御」を中心におこない、今後の研究指針となる重要な結果を得た。研究計画全体で俯瞰すれば、概ね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度研究の難しかった「スピン伝導物理の定量的な解明とスピン注入・検出源の技術開発」に着手する予定で、前年度末に装置の立ち上げ等の準備を概ね終了している。 研究計画通り、SiONをトンネル障壁層に持つ強磁性トンネル接合を作製する。その際に、トンネル障壁層の作製手法を3種類試行する。各々の手法の中で基板温度、障壁層膜厚などのパラメータを大きく変更して、低抵抗かつスピン注入効率の高い磁気トンネル接合を目指す。これらの最適化は簡便なデバイス構造で進める。 それらの後、最適な磁気トンネル接合を用いてスピン電界効果型トランジスタを作製し、スピンシグナルの増大を達成する。
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