2020 Fiscal Year Annual Research Report
Multimodal molecular recognition sensor based on chemically functionalized suspended graphene
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20H02204
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
高橋 一浩 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90549346)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 架橋グラフェン / NEMS / マルチモーダルセンサ / 共振器 / 化学センサ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究室独自の減圧ドライ転写法を用いてキャビティ封止型グラフェンドラムを作製し、架橋グラフェン上に特異吸着した生体分子間の相互作用力と分子質量を同時に検出するマルチモーダルセンサの試作を行った。センサの評価には最も一般的なタンパク質のひとつであるヒト血清アルブミン(HSA)を用いて検証実験を行い、HSA抗原を滴下した場合と対照実験を行った際の応答を比較することで分子選択性を有することを確認した。抗原の濃度を下げていくと表面応力応答量が小さくなっていく傾向が得られ、10ag/mL以上の濃度でネガティブコントロールとの有意差が得られた。吸着分子の質量を評価するための共振周波数測定には、2次元材料の架橋構造を高周波で測定可能なレーザー励起による振動計測法を用いて評価を行った。表面応力測定と同じ手法で分子を吸着させて工程ごとの共振周波数を測定した結果、処理前の共振周波数が 8.60 MHz、架橋剤とanti-HSA抗体固定化後の共振周波数が6.88 MHz、そしてHSA抗原吸着によって5.54 MHzの共振周波数が得られ、分子が架橋グラフェン上に吸着するごとに共振周波数が低下する結果が得られた。抗原抗体反応前後の共振周波数シフト(-1.34 MHz)から、質量感度を算出すると13.2 zg/Hzが得られた。 タンパク質に比べて分子サイズが10倍以上大きいウイルスの吸着時のセンサ応答を評価するため、不活化インフルエンザを検出対象として共振質量計測を行った。ヒトインフルエンザウイルスに特異的に吸着する糖鎖プローブで架橋グラフェンを機能化し、ウイルス吸着前後の共振周波数を測定した。その結果、架橋剤と糖鎖固定化後の共振周波数が10.12 MHz、不活化ウイルスの処理によって9.26 MHzの共振周波数が得られ、分子が架橋グラフェン上に吸着するごとに共振周波数が低下する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
架橋グラフフェン表面を化学的に機能化し、特異吸着した分子により発生する静的なたわみを光干渉変位計測で定量し、外力を印加して可動膜を加振した時の周波数解析から質量を測定するマルチモーダル計測を実現したことから、1年目としては順調に進んでいると判断される。 表面応力測定では、抗原の濃度を下げていくと表面応力応答量が小さくなっていく傾向が取得でき、10ag/mL以上の濃度でネガティブコントロールとの有意差が示せた。ここで得られた検出下限値は、既存の生体分子計測装置として最も感度の高いDigital ELISAの検出下限2 aMよりも10倍程度優れた性能である。また、共振質量計測において、既報のグラフェン共振器では架橋グラフェン表面を機能化してグラフェンを振動させることが困難であった問題をキャビティ封止構造によって解決し、初めてグラフェン表面で生体分子の質量計測を実現した。共振質量センサの感度は振動膜の質量を軽量化することにより感度を向上することができるため、従来のシリコン共振センサと比較すると、約38倍優れた感度を示唆する結果が得られた。したがって、2年目以降のマルチモーダル分子計測に向けての準備を進めることができ、各計測技術の性能面でも優れた数値を達成した。 さらに、架橋グラフェン表面を化学的に機能化する技術を拡張し、インフルエンザウイルスを特異的に吸着する界面の形成に取り組んだ。不活化ウイルスをセンサに反応させて、共振周波数の低下が確認されたことからウイルス吸着時の質量変化の検出が示唆された。一方で夾雑物の非特異的吸着への対策は2年目以降の課題である。 以上より、マルチモーダル計測の原理検証に成功し、架橋グラフェン表面を様々な分子で機能化することも達成したことから、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
架橋グラフェン上への分子の特異吸着時の表面応力と質量マルチモーダル計測が実現できたことから、計測性能の向上とマルチ分子計測に向けた基礎的検討を実施する。 ①ひずみ印加構造の作製:2次元膜の架橋構造は、吸着分子の力学量変化に対して超高感度に応答することができる一方で、質量が小さく慣性力が低いという特徴から環境の粘性に影響を受けやすい。結果として、振動の質を表すクオリティファクターが極端に劣化する。この問題を解決するため、エポキシ製感光性樹脂の熱収縮を利用して印加したひずみによってグラフェンブリッジの振動特性(固有振動数fとクオリティファクターQの積=fQ積)を2桁向上した報告がある[APEX 5, 117201 (2012)]。グラフェン内部にひずみを与える手法として、感光性樹脂の熱収縮を利用して永久歪みを与え、built-in strainの増大によるfQ積の向上を検討する。 ②分子サイズの違いによるセンサ応答の比較:2020年度の実績として、グラフェンマルチモーダルセンサ上で抗原抗体反応を利用したタンパク質の応答と不活化ウイルスの応答の取得を行い、出力変化を得ることができた。この2つの分子は分子サイズが10倍異なり、センサ表面へ吸着する密度も異なっているものと考えられる。そこで、応力測定と質量測定のデータ比較を行い、分子量や吸着密度の違いがセンサ出力に与える影響を検討する。また、質量計測モードでは空気中で動作させることができ、飛沫内に含まれるウイルスを検出できる可能性がある。ウイルスの質量と、これまでに得られたセンサ感度より、単一のウイルス計測が期待できるため、電子顕微鏡観察によるウイルスのカウントと周波数変化から単一分子検出の可能性を議論する。COVID-19を特異的に吸着するレセプターには、スパイクタンパクを吸着する抗体を用いてCOVID-19検出を試みる。
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Research Products
(14 results)