2020 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on the development of Hellenistic architecture I – Rise of the royal palace at Pella
Project/Area Number |
20H02339
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
吉武 隆一 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (70407203)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 明子 (中川明子) 徳山工業高等専門学校, 土木建築工学科, 准教授 (10442469)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ヘレニズム / ギリシア建築 / 宮殿 / ペリスタイル / 復元 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ペラ王宮の建物遺構の現地調査を行い、既往研究の諸問題を整理しつつ復元することで、その建築的特徴を詳細に明らかにすることを目的としている。ペラ王宮は少なくとも7つの区画(I~VII)からなり、このうち区画Iについて調査を行った。分析の結果、区画Ⅰの建設時期は大きく第一期(前期)と第二期(後期)とあり、各々の平面形が詳細に明らかになった。まず第一期には、北翼部に中央に広い前室を伴う「二重アンドロン(主室)」があり、北列柱廊からは中央の前室正面に建つ大きなイオニア式の二重半円柱の列柱を通ってアクセスできた。北列柱廊の東端には円形のトロスがあり、反対に西側にはプロピュロンから北に延びる大回廊があった。中央の中庭は35.3×27.6 mのドリス式ペリスタイルで囲まれていた。東西は14柱間、南北は11柱間で、その背後に約7.7 mと他のストアと同じ奥行きを持つ列柱廊があった。第二期には、北翼部が改築され「三室並列のアンドロン」とその前室が造営された。北列柱廊とこれら三つのアンドロンの間には、二段のステップが東西に延長され、巨大なイオニア式の二重半円柱が正面全体に延長された。トロスは二つに分割されて、東西エクセドラとなり、西翼部は狭い通路を持つ複雑な平面に変化した。また北列柱廊の奥行きは、東西列柱の一柱間分だけ深くなり、ヘレニズム建築でも最大級のホールとなった。このように、中央にペリスタイル中庭を持つ構成に変わりはないが、改築後には北翼部全体が緩やかなシンメトリー構成となり、正面性が増大したことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
準備段階として令和元年度までに予備調査を終え、令和2年度から本格的な現地調査を行う予定であったが、相手国の事情により現地調査を見送り、関連研究資料の入手や分析を行った。令和3年度には現地調査を実施し、これまでの分析結果を現地で確認するとともに、復元の新たな手掛かりを発見した。結果として区画Ⅰの平面を、前後期の建設フェーズ毎に詳細に明らかにできた。このことから、当初の目的に対しておおむね順調に進んでいると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、ペラ王宮の七つの区画のうち、区画Ⅰのさらなる建築学的分析を継続するとともに、ペラ考古局が令和3年度夏から発掘調査に取り組んでいる区画Vの現地調査を実施する予定である。まず区画Ⅰについては、区画Ⅰの北翼部を中心とする諸室とペリスタイルの北列柱の上部構造について、手掛かりとなる建築部材とくにイオニア式半円柱やコーニス(軒部材)を整理し、先行研究を検証しつつより妥当な復元案を提示する。また平面および上部構造の復元結果を踏まえて、考古学的証拠やペリスタイルのオーダーの比例分析、建築装飾の様式分析、建設技術の分析等から、総合的に建設時期を明確にし、区画Ⅰの歴史的変遷を明らかにする。他方、区画Ⅰがペラ王宮の公的な空間であったのに対し、区画Vはヘレニズム君主やその家族のための、プライベートな空間であったと考えられている。これまでの考古学者の調査で、浴室や図書館等を含むギムナシウムであったと考えられているが、その建築的調査は途上にある。そこで現地考古学者と協力しつつ、私的空間である区画Vの建築的特性を明らかにすることを目指す。すでに、発掘年報などの研究資料の一部入手しており、文献資料による調査には着手している。また現地調査に当たっては、すでに区画Ⅰでの協力体制ができかがっていることから、特別な困難はない。他方、昨秋のペラ考古局主催のシンポジウムでは、建築的アプローチだけでなく、宮殿の機能的なアプローチについても議論されたことから、関連分野の研究成果に学びつつより深い建築的理解を目指す。
|