2021 Fiscal Year Annual Research Report
鉄筋振動変位スペクトロスコピーの劣化診断応用に向けた電磁パルス加振レーダの開発
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20H02395
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
三輪 空司 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30313414)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鎌田 敏郎 大阪大学, 工学研究科, 教授 (10224651)
小澤 満津雄 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80313906)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電磁パルス / パルスドップラレーダ / 非破壊検査 / 鉄筋加振 / RC構造物 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究により得られた実績として、まず、パルス加振による鉄筋振動を高速,高SN比で計測可能なGHz帯直交検波パルスドップラレーダシステムのプロトタイプ機の開発を行ったが,本年度はその高周波回路部の最適化を行い,レーダシステムの時間分解能向上,6dB程度のSN比の改善が見られた.また,現場での実験において,通常レーダ計測に用いられる等価サンプリング方式と,計測距離を固定して高SNな計測を行うレンジ固定サンプリング方式を同時に実現可能とするために受信回路を1系統から2系統に増やした.これにより,レンジ固定サンプリング方式での計測対象位置の特定が容易となった. さらに,FEMを用いた電磁界解析により加振用コイルのコイル形状の最適化を行い,基本形のU型,それを並べたE型,直方体上のI型コアを検討した.その結果,E型コアは同じ磁極断面積において10数%の効率向上が見られたが,重量が1.5倍程度になることがわかった.これにより,従来より磁極断面積が5倍程度のU型コアを新たに開発した. 次に、健全時の鉄筋振動変位の周波数依存性やその応答変化が鉄筋径、鉄筋かぶり、コンクリート性状、鉄筋付着状況とどう関連しているかを数値解析により解明するための鉄筋振動変位スペクトロスコピーにおける電磁界―弾性解析を連成させたFEMによる数値解析法の開発では,コンクリートと鉄筋界面の数十μmの遷移帯のモデリングを行い,適当な弾性係数を与えることで,実験と同様の振動変位が得られることを確認した. 次に、電磁パルス加振レーダを用いた鉄筋加振スペクトロスコピー計測の実験例として,コンクリートに鋼材により予め圧縮力を与えるプレストレストコンクリートへの応用を行い,PC鋼材を腐食から保護するシース内部のグラウト充填不足の評価に極めて有効であることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
直交検波型加振パルスレーダシステムの最適化,及びコイル形状の最適化により加振力は昨年度までのシステムの3倍程度になった.加振力は1cmで約60%低下するため,探査深度は2cm程度向上する結果となった.コイル形状の最適化により,I型コアでは磁路がU型よりも1/3程度短かくできるため,コア重量を大幅に低減でき,同一断面積では効率は低下するものの,同一重量では効率が2倍程度高まる可能性も示唆された.また,深部での加振力の低下割合が1cmで70%程度の低下とU型より深部計測向きであることもわかった.この場合,探査深度は3cm程度向上する可能性もある. 次に,このコイルを用いて,PCコンクリートのPCシースのグラウト充填度の評価を行い,樹脂製のシース管では充填度0%,および100%のPC供試体に適用した結果,100%に比べ0%は鋼材による共振周波数のピーク振幅が10倍程度変わるなど,世界で初めてスペクトロスコピックな鋼材振動の変化を計測できた.一方,金属シース管では100%に比べ0%は2倍程度大きくなるなど,明瞭な変化は得られなかったが,これは本質的に金属シース管により内部鋼材の電磁界が遮断されたためであり,弾性波的な手法と融合することでさらに情報を得られるものと考えている. さらに,本システムを用い大田区土木課の協力のもと,塩害環境下にある感潮河川である大田区呑川最下流の旭橋のRC橋台において現地での腐食評価実験を行い,腐食の可能性のある地点と健全な場所での鉄筋振動特性において200~300Hz付近のピークに変化が表れることも計測できた.この場所では実験後にはつり出しを行っており,実際に腐食レベルI~IVのうちレベルIVの腐食状態であることも確認している.これにより,3年間で予定していた実験内容をほぼ達成することができ,大幅な研究の進展が達成できたと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、開発したプロトタイプレーダの加振力向上において問題となった誘導雑音の低減が課題になると考えている.加振力を向上したことにより,パルス電流印可時に比較的大きな誘導雑音が混入している.この原因は,コイルからの磁界がアンテナケーブルを介してカップリングすること,空中から直接レーダ装置にカップリングすること,コイルの振動自体がアンテナに伝わりアンテナを振動させることで発生すること,コイルの磁界がアンテナに電気的に作用して振動させること等が考えられ,これらの対策を取る必要がある.また,計測システムにおいて得られる振動変位の絶対値の妥当性確認が不十分であるため,既知の振動物体を用いたキャリブレーションを行うことも必要と考えられる. FEM解析では,遷移帯を模擬した解析に加え,非線形FEMを導入することでより現実的な遷移帯の弾性係数において振動変位のシミュレーションを可能とする解析法の開発も行う. また,大阪大学が保有する充填度の異なるPCコンクリート供試体を用いて,充填度評価の可能性を検討する.また,大田区と協働し実環境でのPC構造物での充填評価実験や,塩害環境下での橋台の腐食評価実験を多数実施し,実計測での共振周波数の変化やその振動変位の変化、位相変化、時間領域での応答変化等の現象について、そのメカニズムを解明し、電磁パルス加振レーダ法によるスペクトロスコピックな劣化評価法についての基本原理を明らかにする。
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Research Products
(10 results)