2021 Fiscal Year Annual Research Report
スペクトラルグラフ理論に基づいた固体内イオン伝導の支配因子解析
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20H02422
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
豊浦 和明 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60590172)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スペクトラルグラフ理論 / イオン伝導 / ポテンシャルエネルギー曲面 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,結晶内部に形成される多様で複雑なイオン伝導経路網をスペクトラルグラフ理論に基づいて解析することで,結晶構造とイオン伝導性の相関を理解する新しい方法論の構築を目指す.また,申請者がこれまで系統的に行ってきた種々酸化物結晶中におけるプロトン伝導経路の第一原理解析結果に対してこの方法論を適用することで,ホスト酸化物の結晶構造とプロトン伝導性の相関を包括的に理解することを最終目標とする. 前年度までに,結晶内のイオン伝導経路網を重み付き有向グラフとして表現することが最適であることを見出している.具体的には,伝導キャリアのポテンシャルエネルギー曲面(PES)上においてポテンシャルエネルギー(PE)の極小点をノード,極小点間を繋ぐ経路をエッジとし,エッジにはジャンプ頻度の情報を与えるものである.本研究では,プロトン伝導性酸化物をモデル系とし種々酸化物中におけるPESデータを蓄積しているが,当該年度は,まず,これまでに獲得した膨大なPESデータを重み付き隣接行列とラプラシアン行列へデータ変換するプログラムを作成した. これに加えて,多様な結晶構造を有する酸化物中におけるプロトンPESの第一原理評価も並行して実施している.プロトン伝導性酸化物の候補構造(約500構造)のPES評価は当該年度中に完了する予定であったが,ホストとなる酸化物の結晶構造の対称性が低くユニットセルが非常に大きな約20構造については,十分な精度でPES評価ができていない状況である.これらのPES評価は次年度のできるだけ早い段階で完了し,酸化物結晶構造とプロトン伝導性の相関解明につなげる必要がある. また,本研究の当初計画にはなかったが,派生した成果として,結晶内のイオン伝導経路網を表現した重み付き有向グラフから拡散係数を導出するプログラムを作成した.このプログラムはMASTEQとしてGithubにて公開している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は,以下の3項目の実施を予定していた. (1) これまでに蓄積した種々酸化物中におけるプロトンのPESデータを重み付き有向グラフの形式に変換(重み付き隣接行列とラプラシアン行列)するプログラムの作成. (2) 種々の結晶構造を有するプロトン伝導性酸化物の候補化合物(約500構造)について,プロトンのPESデータ取得を完了. (3) 上記項目(1)(2)を受けて,酸化物結晶構造-プロトン伝導性の相関解明と材料探索・設計指針の提案に向けて,プロトン伝導性を支配するグラフの特徴量探索に着手.
項目(1)については既にプログラム作成済であるが,項目(2)については酸化物結晶の対称性が低くユニットセルが非常に大きな約20構造に対して,十分な精度でPES評価が行えていない.そのため,項目(3)への着手が遅れているのが現状である.一方,本研究から派生した成果として,結晶内のイオン伝導経路網を表現した重み付き有向グラフから拡散係数を導出するプログラムの作成と公開を行っている.以上のように,計画していた実施項目に多少の遅れが生じているものの,当初計画にはない成果も得られていることから,本研究は「おおむね順調に進展している」といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,前年度から引き続き,研究項目(2)各種酸化物中におけるプロトンPESの第一原理評価を進め,出来る限り早い段階で全候補構造に対するPES評価を完了したい.現在,ガウス過程(Gaussian Process, GP)に基づくベイズ最適化(Bayesian Optimization, BO)を用いて効率的なPES評価を行っているが,本手法の難点は,基本的に1つの系に対して同時に評価できるPE点数がただ1つであることにある.PES評価初期は,候補構造が500件と非常に多く,候補構造数が使用可能な計算資源で評価できるPE点数を大幅に上回っていたが,9割以上の候補構造でPES評価を完了した現在では,PE評価に使われない空きの計算機が多数存在する状況となり,実質的な評価効率が落ちているという問題が生じている.そこで次年度は,1つの系に対して複数のPE評価を並行して実行できるように本手法を改良することを予定している.また,現在研究室で保有している計算機クラスタを増強することで,遅くとも本年度前半までに全候補酸化物に対するプロトンPESのデータを揃える計画である.そして,最終目標であった酸化物結晶構造とプロトン伝導性の相関解明および材料探索・設計指針の提案に向けて,プロトン伝導性を支配するグラフの特徴量抽出を行う計画である.
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