2021 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of quenching process by hole transfer for phosphors doped with rare earth and transition metal ions
Project/Area Number |
20H02438
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上田 純平 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (90633181)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 蛍光体 / 温度消光 / ホール移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
シャープな赤色発光を有するMn4+、Eu3+添加蛍光体が白色LED用可視蛍光体として利用・開発されつつある。しかしながら、白色LEDの高出力化による発熱により、これらの蛍光体においても温度消光が問題となるが、その消光プロセスは未解明である。近年、Ce3+やEu2+を添加したいくつかの蛍光体において、光誘起電子移動による消光プロセスの存在が証明されたが、Mn4+、Eu3+蛍光体においては光誘起ホール移動による温度消光プロセスの可能性がり、本課題では、光誘起ホール移動型消光の体系的理解を目指している。 本年度は、Y2O2S:Eu3+赤色蛍光体を中心に詳細な光学特性評価を行った。Eu3+は4f6電子配置をとり、4f-4f遷移によりシャープな赤色発光を示すため、近紫外LED励起赤色蛍光体、バイオイメージング用蛍光プローブ、蛍光サーモメーター、残光蛍光体などへの応用に向け広く研究されている。Y2O2S:Eu3+は古くから知られている蛍光体であり、4f励起準位から電荷移動状態を介して消光することが報告されているが、4f励起準位からのホール移動の直接的な証拠はなかった。Eu3+添加Y2O2Sの熱ルミネッセンス励起スペクトルの測定により、温度消光が生じない室温では観測されなかったEu3+の4f-4f吸収に帰属される励起バンドが蓄光時のサンプル温度を上昇させることによって、新たに出現することを観測した。これは、蛍光体の温度が上昇することによって、Eu3+のホールが熱活性化プロセスを介して価電子帯へ移動したためと考えられる。これは、熱エネルギーのアシストを受けて、Eu3+4f励起準位からホールが伝導帯へ移動したためである。本研究を通して、光誘起ホール移動機構の観測に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Y2O2S:Eu3+赤色蛍光体に着目し、熱ルミネッセンス励起スペクトル測定から4f励起準位から価電子帯へのホール移動の証拠を得ることに成功した。これは、本課題の光誘起ホール移動消光が存在するのかという問いに答えるものであり、主目的の大筋を達成することに成功した。しかしながら、光誘起ホール移動消光において体系的な理解を得るには、系統的な組成の試料合成&より詳細な光学・光電子物性評価を行う必要性がある。 以上より、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ホール移動消光の証拠を得たEu3+添加Y2O2S蛍光体のより詳細な光学特性評価を通して、論文投稿を行う。また、光誘起ホール移動を利用した長残光蛍光体や応力発光体への展開も行う。 これまでの研究において、高温において、光誘起ホール移動のプロセスを熱ルミネッセンス励起スペクトルより観測した。一方で、直接的に観測するために光伝導度測定が必要になるが、Y2O2Sのセラミックス化が必要となる。緻密化の進んだセラミックスを作製するために、作製条件を最適化して、光伝導度測定を行う予定である。 また、光誘起ホール移動は、長残光蛍光体や応力発光体の発生機構と密接に関連しており、本プロセスを利用した光機能性材料の開発への展開も試みる。具体的には光誘起ホール移動が観測された蛍光体粉末を樹脂に混合し、応力を印加したときの応力発光強度を測定する。応力がホール移動と関連しているのであれば、発光中心イオンが作るエネルギー準位と価電子帯間のエネルギー差と応力発光強度に相関があると期待される。本エネルギー差と応力発光の関係についても研究を進める予定である。
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