2020 Fiscal Year Annual Research Report
フェライト系耐熱鋼溶接部の局所クリープ特性評価と組織改質による強度低減の抑制
Project/Area Number |
20H02466
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
光原 昌寿 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (10514218)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高Crフェライト系耐熱鋼 / 溶接継手 / 溶接熱影響部 / クリープ変形 / デジタル画像相関法 / 電子顕微鏡 / 結晶方位解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
火力発電ボイラの主要構成部材である蒸気配管の使用寿命は、わずか数mmほどの幅しかない溶接熱影響部(Heat Affected Zone: HAZ)のクリープ強度によって支配されている。本研究では、多角的組織解析手法によりHAZの微細組織を明確に捉え、デジタル画像相関法(DIC: Digital Image Correlation)と高温クリープ試験法を組み合わせることによりHAZでの局所クリープ変形挙動を直接的に評価する。それらの結果から、HAZのクリープ変形機構・破壊機構の学理を構築する。 本研究では、発電プラント内での多くの使用実績を持つASME規格Grade 91 (代表組成としてFe-0.1C-9Cr-1Mo-0.2V-0.07Nb-0.05N(全てwt.%)、以下ではGr.91鋼と呼称)の溶接継手を試料とした。 2020年度は、Gr.91鋼溶接継手について、その母相であるマルテンサイト組織と、組織中に分散する析出物を定量評価するため、多種の組織解析法を組み合わせて実施した。その結果として、HAZにおける微細組織の定量的区分法を確立した。また、溶接継手に溶接後熱処理と同等の静的熱時効を加えた場合の硬さ変化を測定し、また、上記の組織解析を実施することで、溶接後熱処理を加えた後の組織の区分法も考察した。 また、2020年度は、HAZのクリープ変形・損傷理論確立のための研究手法として、高温DICクリープ試験法の確立を目指し、試験方法の最適化に関する検討を行った。ガス置換型のクリープ試験機の作製、試料表面へランダムパターンを付与する方法の検討、それを高温中において保持できかどうかの確認を経て、画像変化から変形前後の局所変位を定量解析するDIC法とクリープ試験を組み合わせた力学試験法の開発を目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画において、2020年度には、[1]としてHAZにおける微細組織の定量的区分法の確立に向けた多角的組織解析手法の検討を行い、それを20201年度に確立させるとともに、静的時効材やクリープ試験材へと適応させることをとした。また、 [2]として高温DICクリープ試験法によるHAZのクリープ変形・損傷理論の確立を目指し、2020年度にはその試験法の確立とクリープ試験データの取得を開始することとした。 [1]について、HAZ組織の定量的区分法には、走査型電子顕微鏡観察による炭化物の分散状態の定量評価、後方散乱電子回折法によるマルテンサイト組織解析、旧オーステナイト粒再構築法を利用した旧オーステナイト粒径の評価、ビッカース硬さ試験による硬さ変化を複合的に利用することが効果的であり、それにより、粗粒HAZ・細粒HAZ・部分変態域の位置を明確に決定することに成功した。また、2021年度に予定していた時効試験材を用いた検討を前倒しにして、溶接後熱処理温度を想定した740℃での時効による組織評価を実施した。 [2]について、アルゴン置換が可能なチャンバー内に、耐熱性のペンキを塗布したクリープ試験片を設置し、600℃で100 hを超える高温DICクリープのデータ取得に成功し、2020年度の目標を達成した。現在は、650℃へ温度条件を引き揚げ、継続してクリープ試験のデータを採取中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究成果から、溶接ままと溶接後熱処理を加えた際のHAZの組織区分法を確立した。そこで、2021年度は、溶接継手のクリープ試験(中断試験と破断試験)を行った試験体を作製し、その組織評価を実施して、各HAZ領域におけるクリープ変形中のマルテンサイト組織の変化、炭化物の粗大化、ボイドの発生などを詳細に観察する。具体的には、母材部から溶接金属部に至るまで、0.1 mm程度に組織を切り分けつつ、旧オーステナイト粒径、パケット・ブロックサイズ、ラス幅を評価する。また、それぞれの視野での析出物(特に、Cr系炭化物)の析出量と平均粒子径、クリープ中に発生するボイドの個数や面積率を測定する。それらの結果をもとに、HAZにおけるクリープ破壊の発生メカニズムを検討する。 加えて、2020年度の研究成果から、高温DICクリープ試験法による溶接継手試験体のクリープ変形データの取得が可能になった。2021年度はこの高温DICクリープ試験法を用いて、溶接継手のクリープデータ取得を進める。具体的には、600℃または650℃で、50時間、100時間、500時間程度で破断するような試験条件を設定して変形の様子を測定し、特に、溶接継手試験体において、クリープ加速がどのようにして生じるのかについて、ボイドとひずみの関係に着目しつつ考察を行う。 以上の研究遂行内容は、本研究開始時の実施計画におおむね沿ったものであり、本研究の進捗状況は極めて順調である。
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